2019年5月24日 (金)

05/24 【読】「YMOのONGAKU(藤井丈司、アルテスパブリッシング)」

「YMOのONGAKU(藤井丈司、アルテスパブリッシング)」


 1980年にヨロシタミュージックに入社、アルバム「増殖」から散開までYMOのアシスタントを務めたほか、サザンオールスターズのアルバムではシンセ・プログラマーとして、また1990年代以降は音楽プロデューサーとして玉置浩二、JUDY AND MARY、ウルフルズなどを手掛けた筆者が、YMOの活動当時をアルバムのレコーディング・データとともに振り返った書。2016年に下北沢のライヴ・カフェで開催されたトークイベントの書き起こし、毎回豪華なゲストを迎え、観客とともに当時の様子を楽しく語る。YMO結成40周年記念企画、とのこと。


 毎回1枚のアルバムをお題に挙げ、ゲストとともに当時の社会情勢、メンバーや録音現場の様子、使用機材、楽曲構成などレコーディングにかかわるあらゆる事柄をトークした内容。トークイベントは全6回、アルバムYellow Magic Orchestraの回、Solid State Survivorの回には松武秀樹氏、アルバムBGM、Technodelicの回には飯尾芳史氏、浮気なぼくらの回には砂原良徳氏、テクノドンの回には木本ヤスオ氏がゲストとして登場する(おっとSurviceはなかったことになるのかな?)。いずれもYMOに縁の深い人々、松武氏からはYMO結成当初のシンセ事情が、飯尾氏からは解散の危機を乗り越え、最高傑作として名高いTechnodelicがリリースされた当時が詳しく語られる。一方砂原氏からは小学校・中学校当時のいちファンとしてのYMO観や近年のYMOメンバーとのかかわりが、また木本氏からはテクノドンの制作風景、特にYMO再結成にまつわる込み入った事情やメンバーの様子などが語られている。これまでのコレクター本、メディア論や文化論などの視点から書かれた解説本とは異なる、現場感にあふれたトークとなっている。特に筆者の藤井氏はYMOを熱烈に愛するファンでもある。楽曲に対する深い理解と音楽知識があいまって、なかなか熱い語りを聞く(読む)ことができるのがうれしい。イベント会場に集まった聴衆もコアなYMOファンばかりで、司会とゲスト、会場全体が一体となってYMOに思いをいたせるというのは同じくコアなファンを自認する亭主にとっては大変羨ましい。


 こういうファン本・企画本の多くは(残念ながら)ノリで書かれた軽薄な内容、あるいは渡された膨大な資料をライターが淡々と時系列に並べ物語る内容になりがちで、亭主もまたそのような軽薄・淡々とした内容の本には正直うんざりしていた。ところが本書に限っては本当に最初から最後まで興味深く、また楽しく読めて、久しぶりに当時の興奮やときめきを思い出すことができた。文句なしのおすすめ本、YMOファンならばぜひ読んでおきたい決定版といえる(2019.05.24)

2019年5月 4日 (土)

05/04 日々雑感

GWである。

このブログを日々の記録とするならば毎日の亭主の行動をつぶさに報告すべきなのだろうが、あいにく大したことはしていないため、報告すべきことも特にない。というか、報告して面白いことがあるならば率先して報告しているはずだ。

昨日、時間を見て水戸赤塚のワンダーレックス(旧ハードオフ)と水戸の川又書店に行ってきた。

何を買う、というわけではなく、店頭に並べられた品物から刺激を受けることが目的だ。

日々変わり映えしない生活をしていると、すべてが退屈で、ありふれたものに見えてくる。新しいコトを起こすことが億劫に思えてくる。そんなときは外に出て、新しい情報を仕入れるのが良い。興味のないことに無理やり興味を持つ必要はない。これまで慣れ親しんだこと、気軽に興味が持てることが良い。亭主の場合、本やCD、オーディオがそれにあたる。

店頭に並ぶ中古オーディオを見ていると(大したものが並んでいるわけではないことはさておいて)様々な思いが心の中に湧き上がってくる。最近亭主の中では沈滞ムードのオーディオであるが、あんなことがしたい、こんなことがしたいという気持ちがあれやこれやと思いつく。SACDプレーヤが売られているのを見ると、安いSACDプレーヤでYMOのリマスタリング盤が聴きたいと思う。DALIの普及版ブックシェルフを見ていたら、現在PCオーディオで使っているAuratone QC-66をメインシステムに移設して、PCには代わりとして小粋なブックシェルフを置きたいと思う。オーディオに大きく投資できるならばそれも良いが、ちょっとした出費で新しい機器を導入し、手軽に楽しむのでも充分だ。

翌日家事の合間を見つけて、オーディオラックの背面にあるオーディオケーブルをすべて抜き、ホコリなどを良く拭いてつなぎ直してみた。音が良くなったかはよくわからない。以前は埃っぽかったラックの裏がこざっぱりとして、オーディオを楽しんでいる気分になった(本格的にやるならば接点磨きやケーブルの被覆剥きなどやってもよかっただろう)。これだけ楽しめて出費はゼロ円、しかもラック裏がきれいに整理されたのだから、良いコト尽くしだ。

昨日の話に戻る。

ワンダーレックスでオーディオ方向に刺激を受けた次は、書店である。

川又書店では2冊ほど購入した。書名はおいおいレビューなどで報告していく(つまり買ったのは漫画や雑誌、技術書などではない)。こちらも書店の売り場を眺めていると様々にインスピレーションが湧いてきて、あれも読みたい、これも読みたいという気持ちになった。ただ亭主には悪い癖があって、ある作家やジャンルの作品を集中して読み込んでいると突如その作家や、ジャンルに飽きてしまうのだ。いわゆる「おなかいっぱい」というやつ、作品のパターンがある程度読めてしまったり、あるいはたいして得られるものがないと思ってしまった瞬間、(以降の作品も似たか寄ったかであろうと勝手に見切りをつけ)興味を失ってしまうのだ。これまでSFやミステリ、戯曲集、日本史の解説書などでこの気分を味わっている。いや実際は読みたい気持ちがないわけではない。ただ日常生活で読書の時間が限られている中、新鮮な驚きと知識が得られる本はSFやミステリ以外にもたくさんあるのではないかと考えてしまう。

今回購入した2冊は、そういった亭主の飽きっぽさから少し趣を変えた、しかし気軽に興味の持てる2冊である。

 

2019年4月17日 (水)

04/17 【読】「電気グルーヴのメロン牧場・花嫁は死神6(電気グルーヴ、ロッキング・オン)」

「電気グルーヴのメロン牧場・花嫁は死神6(電気グルーヴ、ロッキング・オン)」


 石野卓球とピエール瀧によるテクノユニット・電気グルーヴがロッキング・オン誌上で好評連載していた「電気グルーヴのメロン牧場・花嫁は死神」最新刊。今回は2014年から2018年までの5年間の記事を収録。毎号収録に漏れた記事をボーナストラックとして追加している。


 なお本書発刊後ほどなくしてピエール瀧は麻薬取締法違反で逮捕されている。Sony Music(Ki/oon Sony)は電気グルーヴとピエール瀧の作品一切を販売中止としたが、本書は引き続き書店などで大好評販売中。未読の方はぜひ手に取って、レジへと突進いただきたい。


 電気グルーヴ結成25周年から30周年へ。齢50をすぎてますますお元気な石野おじいちゃん、瀧おじいちゃんのお達者トークが楽しめる「メロン牧場」。毎回、ご両人によるセクハラもスカトロも、酸いも甘いも噛みちらしたどーしようもないトークが延々とつづられている。もちろんライブ・レコーディングの様子やピエール瀧の俳優業に関する話題もあるが、これらはあくまでも「まくら」であり「もののついで」で、メインはもっぱら石野卓球によるどーしようもない話と、それを受けて火に油を注ぐピエール瀧の受け答えにある。ちなみに今回のメインは、アルバム制作の合宿中に生まれたウルトラマン兄弟に対する各種妄想から、なぜか瀧が「ウルトラの瀧」へと改名するエピソードだ。当初は俳優業をはじめこれまでの全作品のクレジットを「ウルトラの瀧」へと変更するよう卓球が迫っていたようだが、最終的には電気グルーヴの中でのみ、1年間の改名ですんだらしい。無理やりにでも改名を迫る卓球と、改名の圧力をノリで躱しつつ全体的に「いやーな感じ」を醸し出す瀧の掛け合いが何とも微妙なスリルをはらんでいる。ゆるいトークが多い本書において唯一といっていい緊張シーンといえるだろう。その他卓球による同性愛トーク、瀧が海外旅行中に遭遇したモヤモヤエピソードなど、全般にどうでもいいエピソードがてんこ盛り。いちばんモヤモヤするのは、コカイン使用で摘発されたピエール瀧が、「ウルトラ」よりも「瀧正則」で売れてしまったあたりだろうか。まあ世の中とはそういうものなのだろうと割り切るしかない。


 ところで。


 世間ではピエール瀧の薬物不法使用に伴う、Sony Musicならびにテレビ局の対応に批判が集まっている。音楽作品の店頭からの撤去と販売中止、映像作品におけるピエール瀧出演部分の撮り直しなどその余波は計り知れず、業を煮やした宮台真司氏ら有志がSonyに対して音楽作品の販売中止撤回を求める署名を提出するなど今もなお混乱は続いている。


 亭主はこのSonyの対応を知ったとき、まず最初に「Sonyはなにがしたいのだろう?」と疑問に思った。違法薬物の使用で逮捕されたアーティストは以前からいたものの、本格的な作品の販売中止は槇原敬之が最初だったという。以降ちょくちょくアーティストが逮捕されるたびに販売中止の措置が取られているが、レコード会社はこの販売中止になんの思いを込めたのだろうか。いや、会社として違法薬物に向き合い、またアーティストに対して厳しい措置をとってきたのだろうか。


 もし会社として違法薬物と決別する強い意志を示したいならば、少なくとも現在レコード会社に在籍するアーティスト・タレント全員に薬物検査を行い、陽性と判断された者全員に厳正なる処分を下すべきであろう。薬物によって製作された作品を「悪の所業」ととして回収・破棄することは勿論、マスターテープに至るまで完全に処分したのち将来アーティストがレコード会社にもたらすであろう利益を損害賠償としてアーティストらに請求し、またアーティストとの契約を解雇して違法薬物を徹底的に排除する意思を示すべきだ。


 あるいは、違法薬物から契約アーティストたちを守りたいと強く思うならば、アーティストたちに一日~数日の研修を受けさせて薬物の危険性を啓もうし、もしアーティストが薬物に手を出したならばマスコミからアーティストを保護するとともに更生のためのプログラムを施して社会復帰を支援すべきだろう。しかし現時点でレコード会社は、どちらの態度も表明していない。少なくとも騒ぎが収まるまで息をひそめ、アーティストに私刑さながらの処分を下して自らに火の粉がかからぬよう知らん顔をしているようにしか見えない。


 繰り返して言うが、これはピエール瀧だけの問題ではない。音楽業界、ひいては日本の芸能界がどのように違法薬物(その供給源の多くは北朝鮮であり、反社会勢力の収益源となっている)と対峙していくかという問題なのだ。違法薬物に手を出す人間は、違法と知りながら薬物に慰安や救い、その場しのぎの活力を求める弱い人間である。強く罰するべきは違法薬物を違法と知って販売する人間たち、そしてそれら薬物によって収益を得ている犯罪者集団なのだ。残念なことに日本の警察組織、公安が目をつけるのは、薬物を販売する犯罪者ではなく、薬物を使用してしまう被害者たちである(これは振り込め詐欺グループがなかなか摘発されず、著作物をアップロードする側ではなくダウンロードする側をよく罰する状況ととてもよく似ている。犯罪者も警察も、弱者を相手にする方が楽であるし、手っ取り早く成果を上げられることをよく知っているのだ)。


 亭主もSony Musicの対応には強く抗議する。しかしその抗議は芸能界に蔓延する薬物に対してまるで会社が被害者であるかのように振舞い、社会的責任を果たしていないことへの抗議である。そして社会的責任を果たさない中でただひたすらに叩かれ続ける薬物被害者、弱者に対する「いじめ」への抗議である。(2019.04.17)


 

2019年4月 5日 (金)

04/05 【読】 「犬であるとはどういうことか~その鼻が教える匂いの世界~(アレクサンドラ・ホロウィッツ、白揚社)」

「犬であるとはどういうことか~その鼻が教える匂いの世界~(アレクサンドラ・ホロウィッツ、白揚社)」

 

 コロンビア大学バーナード校で教鞭をとるかたわら、犬の認知研究室を主宰する著者が犬の認知について徹底的に解説した書。氏の著作には犬の認知を総合的に解説する「犬からみた世界」があるが、本書は特に「嗅覚」について氏の膨大なフィールドワークが記載されている。2016年刊。日本語版は竹内和世氏翻訳にて2018年に刊行されている。

 「匂いを嗅ぐ行動」は犬のもっとも代表的かつ特徴的な行動である。愛犬家ならば自分の飼い犬が散歩の植え込みや電信柱につけられた他の犬の匂いを念入りに嗅いでいるのを見るであろうし、愛犬家でなくともテレビや新聞で警察犬や麻薬探知犬といった特別に訓練された犬が活躍する記事を目にすることだろう。本や日常会話で「犬の嗅覚は人間の10万倍」などと聞くと「じゃあ犬は日常相当臭いに違いない」と思いがちだが、ならば犬は(相当臭いにも関わらず)なぜ執拗に匂いを嗅ぐのだろうかという疑問も同時に湧き上がることだろう。

 本書では、犬の鼻が分子一個分を検知する超強力なニオイセンサであると同時に、このニオイセンサの能力を利用して、人間が様々な役割を犬に与えていると説明する。先に述べた警察犬や麻薬探知犬だけでなく、トリュフをかぎ分ける犬、森の中で野生動物の痕跡を探す犬など、活躍の範囲は実に広い。犬がどのようにニオイを検知するのか、鼻の構造、匂いを嗅ぐ動作、そして検知した匂いをどのように脳内で処理するのかーーー氏の専門である認知行動学を駆使することで、犬が持つ強力な能力、そして能力がもたらす犬独特の世界観を犬との日常から生き生きと解説している。

 人間の10万倍とも、1億倍とも言われる犬のニオイセンサ、しかしこのセンサは犬に限ってのものではない。本書ではまた、著者自身が匂いの研究室で匂いのトレーニングを繰り返した結果、彼女自身もまた強力なセンシング能力を獲得するに至った経緯が語られる。うんざりするほど膨大な匂いのサンプル、時には吐き気を催したり頭痛がするような匂いまでテストの対象として嗅いだ結果、彼女の脳は匂いをビジュアルやイメージと結びつけて記号化し始める。記号化するということはすなわち脳内で情報処理が可能であることを意味する。犬と一緒に植え込みの匂いを嗅ぐことで、それまで見えて(匂って)こなかった犬独特の風景が見えて(匂って)くる。匂いとは過去に起こったことの記録である。犬は世界にちりばめられた「過去」をその強力なセンサで探知し、記号化している。

 人間もまた訓練によって犬に匹敵する匂い検知能力を獲得できるというのが本書における大きなトピックだろう。もちろん人間の鼻は、犬の鼻のように匂いを嗅ぐことに特化した構造を持っていないし、トレーニングを怠れば能力は失われてしまう。しかし生物の鼻が匂いすなわち化学物質を検出・分類可能な「生体センサ」であることは「目=光」「耳=音」といったセンサと比肩しうるものとして発達してきたことを意味する。

 現代において匂いを嗅ぐ行為はけっしてマナーのよいものではなく、消臭グッズが売れていることからも匂いを生活から遠ざける風潮にあることは確かだが、それでも「匂い=化学物質」を探知する能力は、生物の持つ基本的なセンサの一つなのだ。(2019.04.05)

2019年1月18日 (金)

01/18 【読】 「夜の力ーーーウェストバム自伝(ウェストバム、楯岡三和・マルクス・シュレーダー訳、Ele-king Books)」

「夜の力ーーーウェストバム自伝(ウェストバム、楯岡三和・マルクス・シュレーダー訳、Ele-king Books)」


 ドイツのテクノ・レーベルLow Spilit主宰。ドイツの大規模テクノ・イベントLove Parade, MAYDAYなどを手がけ、テクノの大重鎮と目されるWestbamの回想録的自伝。彼の生い立ちから現在に至るまでの様々なエピソードが、ちょっとハイな文体で一冊の本に凝縮されている。


「西の(アフリカ・)バンバータ」を自称、正確無比なDJプレイと"Monkey say, Monkey do"等のヒット曲で知られるWestbam。日本では石野卓球が主催する巨大レイヴWireの常連DJとして人気の高い彼の音楽人生はパンクスから始まった。弟のFabianとともにドイツの都市・ミュンスターに生まれ育った彼は、Fad Gadgetのセカンドシングル"Ricky's Hand"をきっかけにパンクス仲間とつるむようになり、他の多くのヨーロッパ系アーティストと同様にセックスドラッグロックンロールな世界へと入門していく。あるとき、ひょんなことからDJを任された彼は、偶然か必然かはわからないものの強烈な成功体験を得、以降DJとしてのキャリアを歩むこととなる。


 様々なアーティストとの出会いや、巨大レイヴの運営、レーベル経営などが回想録的に語られていて、そのワードのどれもがテクノ・ファンにとっては思わず「にやり」とするものばかりーーーだが、最初の方はドイツローカルすぎてわからない方が多い。石野卓球との「日独テクノ同盟」や日本でのアルバムリリースなどもさっくりと省略されている。Westbam自身日本のファン向けに書いているわけではないので仕方ないが、このあたりの突き放しようがなんともアーティスト的で、テクノファンを自認する亭主にはむしろ小気味よい。一般に受け入れられる内容かといえば「ノー」。Westbam好きな人はどうぞ、程度のおすすめ度ということで。(2019.01.18)

2018年12月24日 (月)

12/24 【読】 「澤野工房物語(澤野由明、DU Books)」

「澤野工房物語(澤野由明、DU Books)」

 大阪は新世界を拠点とするインディーズ・ジャズ・レーベル「澤野工房」。本業は下駄屋、趣味と止むない事情からジャズ・レーベルを二足のワラジに掃いての20年を、代表である澤野由明氏の半生とともにつづった書。ジャズに傾倒した青年時代、レコードの輸入輸出業から始まったジャズ商売、そして3度の廃業の危機を乗り越えて至ったレーベルの現在まで、澤野の魅力が存分に楽しめる。外伝として、レーベルに封入されたアルバム解説を担当する北見柊氏による澤野工房のよもやまコラム、そしてこれまで澤野がリリースしたアルバムをフルカラーで収録したディスコグラフィも収録されている。


 初期はウラジミル・シャフラノフ、ヨス・ヴァン・ビースト、山中千尋などの作品をリリース、寺島靖国氏から絶賛を受けたことで人気に火が付いた澤野工房。ヨーロッパを中心に、日本ではなかなか耳にすることのできない実力派アーティストたちの作品をドシドシと紹介する本レーベルを支持する人は、(亭主を含めて)実に多い。そのレーベルの特徴は、スムース&スタイリッシュ。ヨーロッパらしい洗練された演奏と、洒落たアルバム・デザインには女性にもファンが多いと聞く。実際、上野駅構内の雑貨店「アンジュ」には、ハイセンスな文房具や可愛い小物たちと一緒にこのレーベルの作品が並べられていて、若い女性が手に取る様子をよく見かける。亭主も、東京に行った際にはこの店で1枚、2枚、最新作を買うのを楽しみにしている。音が良いのもレーベルの特徴、音質へのこだわりがジャズ・ファン、オーディファンの心をがっしりとつかんでいて、その傾向は以降も変わらない。


 なお本文は語り下ろし、端正な口語の口調で読みやすい。澤野氏によるレーベル・アーティスト解説、澤野工房にかかわる人々へのインタビューなど、盛りだくさんな内容がうれしい。(2018.12.24)

2018年12月18日 (火)

12/18 【読】 「あなたの犬は幸せですか-Cesar's Way-(シーザー・ミラン+メリッサ・ジョー・ペルティエ、講談社)」

「あなたの犬は幸せですか-Cesar's Way-(シーザー・ミラン+メリッサ・ジョー・ペルティエ、講談社)」

 メキシコ出身。アメリカに移住してからはカリスマ・ドッグ・トレーナーとして多くの犬をリハビリテーションしてきたシーザー・ミラン氏が、自身の半生とともに犬のしつけ方、犬との暮らし方のノウハウ(の一端)を解説した書。2006年刊。

 ペットを飼っている人ならば、「ザ・カリスマ・ドッグ・トレーナー~犬の気持ち、わかります~」というテレビ番組の名前をどこかで聞いたことがあるだろう。シーザー・ミラン氏が毎回愛犬家の家を訪問し、愛犬の問題行動を改善するためのアドバイスを与え、また実際に実践して見せる。飼い主の前ではまったくいうことを訊かなかった愛犬が、シーザー氏の前ではたちどころに良い子に変身する姿は魔法のようであり、「さすがカリスマ」と愛犬家やテレビの視聴者を唸らせる。本書は、そんなシーザー氏がどのようにして犬をしつけているのかの一端が、様々なエピソードとともに語られる。

 ただ、本書で書いてあることの多くは、むしろ「飼い主向け」のアドバイスである。犬の問題行動の原因は実は飼い主にあり、犬に対する勝手な価値観の押しつけ、犬をいらだたせる態度や行動にあるという。本書において「問題行動」とは、飼い主の問題行動を指す。「わたしが犬にするのはリハビリです。訓練は人間のほうにします」とはシーザー氏の言葉。犬の本質を理解し、人間が群れのリーダーとして、また犬が群れのメンバーとして振舞うことで、人間と犬の間に信頼関係が構築され、犬に幸せを与えられるという。このあたりの詳細は実際に本書を手に取ってごらんいただきたいところ。

 なお亭主は以前、シーザー氏の本を読み、「読」のコーナーで紹介している(こちらはナショナルジオグラフィックからの発行)。内容は本書とほぼ同じだったので、どちらか一方を読めばよいだろう。(2018.12.18)

2018年12月14日 (金)

12/14 【読】 「敗戦後論(加藤典洋、ちくま学芸文庫)」

「敗戦後論(加藤典洋、ちくま学芸文庫)」


 文芸評論家、早稲田大学教授。新潮学芸賞、桑原武夫学芸賞などを受賞する著者が、戦後の日本人論に大胆に切り込んだ書。本書もまた伊藤整文学賞を受賞している。

 戦後、なぜ戦争責任論が繰り返し議論にのぼり、紛糾するのか。なぜ中国や韓国は日本に対し繰り返し謝罪と賠償を求めてくるのか。本書は日本人にとって、また周辺諸国にとってきわめてデリケートな問題に対し、政治、文学、歴史の分野からそれぞれ考察を試みる。その主たる原因は、中国や韓国の人々のメンタリティでも、現政権の傲慢さでもない。「原子爆弾」という破壊的トリガが日本人の心の中にどんな変化をもたらしたか。1997年に本論が発表された際には大きな話題となり、またずいぶん批判されたとのこと。

 亭主はとあるブログで本書を知り、それではということで読んでみた。ブログでは「良書」と紹介されているとおり、ナルホド面白い。なかでも戦中戦後における作家たちの作品の変遷から、それぞれの戦後感がかいま見得るあたりは出色。冷静な考察と、文芸評論家らしく文芸作品をフル活用した論展開は最後まで飽きさせない。

 本書には「敗戦後論」「戦後後論」「語り口の問題」を収録。内田樹氏、伊東祐吏氏が解説を加えている。(2018.12.14)

2018年12月 1日 (土)

12/01 【読】 「流浪の皇女ーグイン・サーガ144ー(五代ゆう、早川書房)」

「流浪の皇女ーグイン・サーガ144ー(五代ゆう、早川書房)」


 グイン・サーガ続編プロジェクト最新刊。作者である栗本薫氏が逝去してのち二人の女流作家によって書き継がれている本プロジェクト、ただし現在は宵野ゆめ氏が体調不良ということで、五代氏一人が気を吐いている。


 豹頭王グインを主人公に、多くの登場人物が複雑な人間模様を描くグイン・サーガ。本巻では、(1)グインの正妻でのちに「売国妃」とまで言われた皇女シルヴィアの逃避行、(2)ゴーラ王イシュトヴァーンの実子ドリアン王子誘拐事件と、それを追う小イシュトヴァーン・スーティの冒険、(3)突如反旗を翻したケイロニア選定候ディモスが統治するワルスタットでの異変に対するグインの介入、そして(4)竜人ヤンダル・ゾッグによって魔都へと変貌したミロク教聖都・ヤガでの魔導師たちの戦いの4つのシーンが、シーンを入れ替えつつ描かれている。特に(3)については直接グインが事件に介入することで事態は急速に改善。長らく続いていた(4)ヤガでの魔道戦争もパワーバランスが崩れ、ヤンダル・ゾッグ側の体制崩壊により終局を迎えつつある。特にヤガでの魔道戦争は栗本氏の「見知らぬ明日」にて中断されていたエピソード。物語の円環(の一つ)がようやく閉じることとなったという意味において感慨深い。一方で、ヤガ編を発端としてあらたなエピソード(具体的にはヤガを脱出したスーティが、弟であるドリアンを救出に向かうお話)が立ち上がっているなど、作品全体としてはまだまだ終わりそうにない。


 当初は2名による執筆ということで間髪を入れずの続巻を期待していたのだが、現在は1名体制、しかもグインの作品世界を正確に再現するため多くのアドバイザが考証に協力しており、現在の刊行ペースは年に2冊程度とかなり苦労している様子。願わくば五代氏も体調をくずされないよう、シリーズ加速に向け宵野氏の早い復帰を望むところだ(2018.12.01)

2018年10月19日 (金)

10/19 【読】 「夢の中で会えるでしょう(高野寛、mille Books)」

「夢の中で会えるでしょう(高野寛、mille Books)」


 1995年4月から1年間、NHK教育テレビで放送されていた音楽トーク番組「土曜ソリトンSIDE-B」。毎回登場する多彩なゲストと、ゆる~いトークが人気を博し、現在でも語り草になるほどの人気番組が、2016年吉祥寺のイベントスペース&カフェ「キチム」でトークライブとして蘇った。MCはもちろん当時ソリトンでもMCをつとめた高野寛。トークのお相手は、同じくもう一人のMCだった緒川たまきのほか、BOSE(スチャダラパー)、いがらしろみ(料理家)、高橋幸宏、片桐仁、コトリンゴ。さらに書籍化にあたって「この世界の片隅に」で声優としてもデビューした「のん」との特別対談も収録されている。カバーイラストは青木俊直。


 1995年、「テレビの時代」まっただ中に放送を開始、坂本龍一の出演で一気に人気に火が付いた「土曜ソリトンSIDE-B」。名前のとおり、アルバムのA面(=ポップ・カルチャー)ではなくB面(=サブカルチャー)を扱ったことで、コアな人たちが好んで見ていたことで特に有名である。個性的なゲストと、高野・緒川のまったりMCが妙にツボにはまり、亭主もまた毎週楽しみにしていたことを覚えている。ちなみに亭主が好きな番組は、この「土曜ソリトンSIDE-B」、それに1988~9年にテレ東で深夜に放送していた「モグラネグラ」を挙げたい。これにFM番組だが「サウンドストリート」が加われば申し分ない。いつかこれらがDVDで復刻されたらいいのにと思っているのだが、うかうかしていたらBlu-ray時代になってしまった。Blu-rayで復刻してくんないかな。だめかな。


 そんなわけで本書「夢の中で会えるでしょう」。トークゲストはいずれも高野寛と縁の深い人たちばかりで、息もぴったり、まったりとしながらもテンポよく会話が進んでいく。ちなみにいがらしろみ氏は、日本におけるコンフィチュール(フランスのジャム)の第一人者であるが、若いころは高野寛ファンクラブの手伝いもしていたという。またスチャのBose氏は京都精華大学でともに学生相手に教鞭をとる仲である。過去から現在、未来へと人の縁をつなぐ物語。高野寛は今年デビュー30年目になるという。裏話、よく知る話を織り交ぜながらゆったりとした時間を楽しむことができる作品。トークライブもこのような雰囲気だったのだろうか、チケットは当日完売となったそうだがぜひ行ってみたかった(2018.10.19)

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