2019年1月18日 (金)

01/18 【読】 「夜の力ーーーウェストバム自伝(ウェストバム、楯岡三和・マルクス・シュレーダー訳、Ele-king Books)」

「夜の力ーーーウェストバム自伝(ウェストバム、楯岡三和・マルクス・シュレーダー訳、Ele-king Books)」


 ドイツのテクノ・レーベルLow Spilit主宰。ドイツの大規模テクノ・イベントLove Parade, MAYDAYなどを手がけ、テクノの大重鎮と目されるWestbamの回想録的自伝。彼の生い立ちから現在に至るまでの様々なエピソードが、ちょっとハイな文体で一冊の本に凝縮されている。


「西の(アフリカ・)バンバータ」を自称、正確無比なDJプレイと"Monkey say, Monkey do"等のヒット曲で知られるWestbam。日本では石野卓球が主催する巨大レイヴWireの常連DJとして人気の高い彼の音楽人生はパンクスから始まった。弟のFabianとともにドイツの都市・ミュンスターに生まれ育った彼は、Fad Gadgetのセカンドシングル"Ricky's Hand"をきっかけにパンクス仲間とつるむようになり、他の多くのヨーロッパ系アーティストと同様にセックスドラッグロックンロールな世界へと入門していく。あるとき、ひょんなことからDJを任された彼は、偶然か必然かはわからないものの強烈な成功体験を得、以降DJとしてのキャリアを歩むこととなる。


 様々なアーティストとの出会いや、巨大レイヴの運営、レーベル経営などが回想録的に語られていて、そのワードのどれもがテクノ・ファンにとっては思わず「にやり」とするものばかりーーーだが、最初の方はドイツローカルすぎてわからない方が多い。石野卓球との「日独テクノ同盟」や日本でのアルバムリリースなどもさっくりと省略されている。Westbam自身日本のファン向けに書いているわけではないので仕方ないが、このあたりの突き放しようがなんともアーティスト的で、テクノファンを自認する亭主にはむしろ小気味よい。一般に受け入れられる内容かといえば「ノー」。Westbam好きな人はどうぞ、程度のおすすめ度ということで。(2019.01.18)

2018年12月24日 (月)

12/24 【読】 「澤野工房物語(澤野由明、DU Books)」

「澤野工房物語(澤野由明、DU Books)」

 大阪は新世界を拠点とするインディーズ・ジャズ・レーベル「澤野工房」。本業は下駄屋、趣味と止むない事情からジャズ・レーベルを二足のワラジに掃いての20年を、代表である澤野由明氏の半生とともにつづった書。ジャズに傾倒した青年時代、レコードの輸入輸出業から始まったジャズ商売、そして3度の廃業の危機を乗り越えて至ったレーベルの現在まで、澤野の魅力が存分に楽しめる。外伝として、レーベルに封入されたアルバム解説を担当する北見柊氏による澤野工房のよもやまコラム、そしてこれまで澤野がリリースしたアルバムをフルカラーで収録したディスコグラフィも収録されている。


 初期はウラジミル・シャフラノフ、ヨス・ヴァン・ビースト、山中千尋などの作品をリリース、寺島靖国氏から絶賛を受けたことで人気に火が付いた澤野工房。ヨーロッパを中心に、日本ではなかなか耳にすることのできない実力派アーティストたちの作品をドシドシと紹介する本レーベルを支持する人は、(亭主を含めて)実に多い。そのレーベルの特徴は、スムース&スタイリッシュ。ヨーロッパらしい洗練された演奏と、洒落たアルバム・デザインには女性にもファンが多いと聞く。実際、上野駅構内の雑貨店「アンジュ」には、ハイセンスな文房具や可愛い小物たちと一緒にこのレーベルの作品が並べられていて、若い女性が手に取る様子をよく見かける。亭主も、東京に行った際にはこの店で1枚、2枚、最新作を買うのを楽しみにしている。音が良いのもレーベルの特徴、音質へのこだわりがジャズ・ファン、オーディファンの心をがっしりとつかんでいて、その傾向は以降も変わらない。


 なお本文は語り下ろし、端正な口語の口調で読みやすい。澤野氏によるレーベル・アーティスト解説、澤野工房にかかわる人々へのインタビューなど、盛りだくさんな内容がうれしい。(2018.12.24)

2018年12月18日 (火)

12/18 【読】 「あなたの犬は幸せですか-Cesar's Way-(シーザー・ミラン+メリッサ・ジョー・ペルティエ、講談社)」

「あなたの犬は幸せですか-Cesar's Way-(シーザー・ミラン+メリッサ・ジョー・ペルティエ、講談社)」

 メキシコ出身。アメリカに移住してからはカリスマ・ドッグ・トレーナーとして多くの犬をリハビリテーションしてきたシーザー・ミラン氏が、自身の半生とともに犬のしつけ方、犬との暮らし方のノウハウ(の一端)を解説した書。2006年刊。

 ペットを飼っている人ならば、「ザ・カリスマ・ドッグ・トレーナー~犬の気持ち、わかります~」というテレビ番組の名前をどこかで聞いたことがあるだろう。シーザー・ミラン氏が毎回愛犬家の家を訪問し、愛犬の問題行動を改善するためのアドバイスを与え、また実際に実践して見せる。飼い主の前ではまったくいうことを訊かなかった愛犬が、シーザー氏の前ではたちどころに良い子に変身する姿は魔法のようであり、「さすがカリスマ」と愛犬家やテレビの視聴者を唸らせる。本書は、そんなシーザー氏がどのようにして犬をしつけているのかの一端が、様々なエピソードとともに語られる。

 ただ、本書で書いてあることの多くは、むしろ「飼い主向け」のアドバイスである。犬の問題行動の原因は実は飼い主にあり、犬に対する勝手な価値観の押しつけ、犬をいらだたせる態度や行動にあるという。本書において「問題行動」とは、飼い主の問題行動を指す。「わたしが犬にするのはリハビリです。訓練は人間のほうにします」とはシーザー氏の言葉。犬の本質を理解し、人間が群れのリーダーとして、また犬が群れのメンバーとして振舞うことで、人間と犬の間に信頼関係が構築され、犬に幸せを与えられるという。このあたりの詳細は実際に本書を手に取ってごらんいただきたいところ。

 なお亭主は以前、シーザー氏の本を読み、「読」のコーナーで紹介している(こちらはナショナルジオグラフィックからの発行)。内容は本書とほぼ同じだったので、どちらか一方を読めばよいだろう。(2018.12.18)

2018年12月14日 (金)

12/14 【読】 「敗戦後論(加藤典洋、ちくま学芸文庫)」

「敗戦後論(加藤典洋、ちくま学芸文庫)」


 文芸評論家、早稲田大学教授。新潮学芸賞、桑原武夫学芸賞などを受賞する著者が、戦後の日本人論に大胆に切り込んだ書。本書もまた伊藤整文学賞を受賞している。

 戦後、なぜ戦争責任論が繰り返し議論にのぼり、紛糾するのか。なぜ中国や韓国は日本に対し繰り返し謝罪と賠償を求めてくるのか。本書は日本人にとって、また周辺諸国にとってきわめてデリケートな問題に対し、政治、文学、歴史の分野からそれぞれ考察を試みる。その主たる原因は、中国や韓国の人々のメンタリティでも、現政権の傲慢さでもない。「原子爆弾」という破壊的トリガが日本人の心の中にどんな変化をもたらしたか。1997年に本論が発表された際には大きな話題となり、またずいぶん批判されたとのこと。

 亭主はとあるブログで本書を知り、それではということで読んでみた。ブログでは「良書」と紹介されているとおり、ナルホド面白い。なかでも戦中戦後における作家たちの作品の変遷から、それぞれの戦後感がかいま見得るあたりは出色。冷静な考察と、文芸評論家らしく文芸作品をフル活用した論展開は最後まで飽きさせない。

 本書には「敗戦後論」「戦後後論」「語り口の問題」を収録。内田樹氏、伊東祐吏氏が解説を加えている。(2018.12.14)

2018年12月 1日 (土)

12/01 【読】 「流浪の皇女ーグイン・サーガ144ー(五代ゆう、早川書房)」

「流浪の皇女ーグイン・サーガ144ー(五代ゆう、早川書房)」


 グイン・サーガ続編プロジェクト最新刊。作者である栗本薫氏が逝去してのち二人の女流作家によって書き継がれている本プロジェクト、ただし現在は宵野ゆめ氏が体調不良ということで、五代氏一人が気を吐いている。


 豹頭王グインを主人公に、多くの登場人物が複雑な人間模様を描くグイン・サーガ。本巻では、(1)グインの正妻でのちに「売国妃」とまで言われた皇女シルヴィアの逃避行、(2)ゴーラ王イシュトヴァーンの実子ドリアン王子誘拐事件と、それを追う小イシュトヴァーン・スーティの冒険、(3)突如反旗を翻したケイロニア選定候ディモスが統治するワルスタットでの異変に対するグインの介入、そして(4)竜人ヤンダル・ゾッグによって魔都へと変貌したミロク教聖都・ヤガでの魔導師たちの戦いの4つのシーンが、シーンを入れ替えつつ描かれている。特に(3)については直接グインが事件に介入することで事態は急速に改善。長らく続いていた(4)ヤガでの魔道戦争もパワーバランスが崩れ、ヤンダル・ゾッグ側の体制崩壊により終局を迎えつつある。特にヤガでの魔道戦争は栗本氏の「見知らぬ明日」にて中断されていたエピソード。物語の円環(の一つ)がようやく閉じることとなったという意味において感慨深い。一方で、ヤガ編を発端としてあらたなエピソード(具体的にはヤガを脱出したスーティが、弟であるドリアンを救出に向かうお話)が立ち上がっているなど、作品全体としてはまだまだ終わりそうにない。


 当初は2名による執筆ということで間髪を入れずの続巻を期待していたのだが、現在は1名体制、しかもグインの作品世界を正確に再現するため多くのアドバイザが考証に協力しており、現在の刊行ペースは年に2冊程度とかなり苦労している様子。願わくば五代氏も体調をくずされないよう、シリーズ加速に向け宵野氏の早い復帰を望むところだ(2018.12.01)

2018年10月19日 (金)

10/19 【読】 「夢の中で会えるでしょう(高野寛、mille Books)」

「夢の中で会えるでしょう(高野寛、mille Books)」


 1995年4月から1年間、NHK教育テレビで放送されていた音楽トーク番組「土曜ソリトンSIDE-B」。毎回登場する多彩なゲストと、ゆる~いトークが人気を博し、現在でも語り草になるほどの人気番組が、2016年吉祥寺のイベントスペース&カフェ「キチム」でトークライブとして蘇った。MCはもちろん当時ソリトンでもMCをつとめた高野寛。トークのお相手は、同じくもう一人のMCだった緒川たまきのほか、BOSE(スチャダラパー)、いがらしろみ(料理家)、高橋幸宏、片桐仁、コトリンゴ。さらに書籍化にあたって「この世界の片隅に」で声優としてもデビューした「のん」との特別対談も収録されている。カバーイラストは青木俊直。


 1995年、「テレビの時代」まっただ中に放送を開始、坂本龍一の出演で一気に人気に火が付いた「土曜ソリトンSIDE-B」。名前のとおり、アルバムのA面(=ポップ・カルチャー)ではなくB面(=サブカルチャー)を扱ったことで、コアな人たちが好んで見ていたことで特に有名である。個性的なゲストと、高野・緒川のまったりMCが妙にツボにはまり、亭主もまた毎週楽しみにしていたことを覚えている。ちなみに亭主が好きな番組は、この「土曜ソリトンSIDE-B」、それに1988~9年にテレ東で深夜に放送していた「モグラネグラ」を挙げたい。これにFM番組だが「サウンドストリート」が加われば申し分ない。いつかこれらがDVDで復刻されたらいいのにと思っているのだが、うかうかしていたらBlu-ray時代になってしまった。Blu-rayで復刻してくんないかな。だめかな。


 そんなわけで本書「夢の中で会えるでしょう」。トークゲストはいずれも高野寛と縁の深い人たちばかりで、息もぴったり、まったりとしながらもテンポよく会話が進んでいく。ちなみにいがらしろみ氏は、日本におけるコンフィチュール(フランスのジャム)の第一人者であるが、若いころは高野寛ファンクラブの手伝いもしていたという。またスチャのBose氏は京都精華大学でともに学生相手に教鞭をとる仲である。過去から現在、未来へと人の縁をつなぐ物語。高野寛は今年デビュー30年目になるという。裏話、よく知る話を織り交ぜながらゆったりとした時間を楽しむことができる作品。トークライブもこのような雰囲気だったのだろうか、チケットは当日完売となったそうだがぜひ行ってみたかった(2018.10.19)

2018年10月 7日 (日)

10/07 【読】 「龍一語彙 2011年~2017年(坂本龍一、角川)」

「龍一語彙 2011年~2017年(坂本龍一、角川)」

 音楽家・坂本龍一の語録集。2011~17年までの7年間に各種媒体に掲載されたインタビュー・対談記事を、「健康」「政治」「環境」「音楽産業」など様々なキーワードで分類・整理・集成したものが本書となる。扱うカテゴリーは36、言及する単語は300以上。解説は福岡伸一。


 亭主のような古いファンにとっては「教授=キーボーディスト、アレンジャー」であり、YMOでの活動のほか「B2-Unit」「音楽図鑑」「未来派野郎」などのソロ作品のイメージが強い。ただ、最近は環境活動や政治活動への露出が多いせいか、このごろの若者にはエコロジストや活動家として見えるらしく、SNSやニュースサイトで強く批判されているのをよく見かける。実際、本書が言及する2011年からの7年間は、世界にとっても、また教授自身にとっても激動の時代。自然災害や政治的混乱、原発の事故などこの場で語るにはとても字数が足りないほどに世界は動乱した。教授もガンを患い、音楽活動を一切休止し自らの命と向き合う日々が続いたという。もともと環境問題に強い関心を持つ教授である。思索の中で生じた社会に対する強い思いが彼を動かした、と解釈するならば、ここ7年の教授のモチベーションの高さに納得がいくだろう。SNSやニュースサイトで部分として切り取られ、批判されてきた言葉が、生きたストーリをもって立ち上がる。「語録」という断片が有機的につながって、一つの世界を形作る。


 なおページ数は462ページ、厚みにして4cmと相当なボリュームだが、各項目が独立しているうえ余白多めのため読みやすい。どこから読んでも良いしどこで読み終えても良い(2018.10.07)

2018年9月 7日 (金)

09/07 【読】 「行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険(春間豪太郎、KKベストセラーズ)」

 

「行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険(春間豪太郎、KKベストセラーズ)」


 冒険家・GOこと春間豪太郎氏による北アフリカ冒険譚。持ち前の行動力と交渉術で襲い掛かるトラブルの数々を次々と撃退、ロバとともにモロッコ1000kmを踏破した様子を一冊にまとめたのが本書となる。2018年3月刊。なお冒険の様子は逐次5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)で実況され、人気を博したとのこと。


 音信不通となった友人を探し、フィリピンはセブ島に一人捜索の旅立ったのがそもそもの発端。海外での経験に味を占めた筆者は、エジプトでのラクダ旅行を経て、モロッコでの単独徒歩旅行を敢行するに至る。現地の言葉を学び、護身術を身に着けた著者がモロッコでやりたかったことは「ロバを連れてのキャラバン」だったそう。旅が進むにつれ、荷運びのロバのほか、猫、鶏、犬、鳩など様々な動物がキャラバンに加わりにぎやかになっていく。彼の旅はモロッコ国内で話題となり、ゆく先々で支援者が現れる。だが、彼の旅は常にトラブルと背中合わせ、ロバの引く荷車は頻繁に壊れ、動物たちはたびたび体調を崩し、そしてGO氏自身も氏の危機に直面する。苦難の果て、1000kmの向こうに何があるかは読んでみてのお楽しみ。(2018.09.07)


 ところで、当初のレビューには含めなかったが、本書を読んでずっと思っていたことがある。それは、旅の道行きに集めた仲間を、帰国の際にモロッコに置き去りにすることの是非だ。ロバにせよ、犬にせよ、少なからず信頼関係を持った仲である。そんな大事な仲間を本人の都合だけで他人に譲渡してしまっていいのだろうかと、そればかりを考えていた。もし自分が、愛犬を残して本国に帰ったとしたならば、愛犬はどのように感じるだろうか。畜生というくらいだから翌日はきれいさっぱり忘れて、別の人間にしっぽを振るだろうか。ネットで話題を呼ぶためにはどんなことも自己都合として許されるのだろうか。


 ただ冷静に考えてみると、著者であるGo氏の旅は観光ビザの有効期間であるたかだか90日にすぎない。いったんモロッコからスペイン領セウタに出国し、再入国することで滞在期間をのばしたとしても、180日程度にすぎないのだ。苦楽をともにした仲間とはいえ、長い目で見ればほんの一瞬の出来事にすぎないと割り切ることができるならば、ロバや犬との別れもさして悲しいものではないのかもしれない。日本に戻れば夢から覚めるように現実が再び息を吹き返す。日本にいて遠くモロッコのことを思うのは、夢にみた景色を思うのにも等しい。


 幸いにもGo氏は、犬や鶏たちを信用のおける人物に譲っているようである。ロバは人間に虐待されないよう、自然へと戻したという。願わくばモロッコに残された小さな命たちが幸せに、その命をまっとうできるように。本のおもしろさとは全く別の部分、亭主の願いはただただそれだけである。

2018年8月 5日 (日)

08/05 【読】 「永訣の波濤 グイン・サーガ143(五代ゆう、ハヤカワ文庫)

「永訣の波濤 グイン・サーガ143(五代ゆう、ハヤカワ文庫)」

 グイン・サーガ続編プロジェクトの最新刊。栗本薫氏逝去のあと、二人の作家によって書き続けられることとなった国産ヒロイック・ファンタジーの金字塔「グイン・サーガ」だが、現在宵野ゆめ氏が体調不良とのことで、ここ数巻はずっと五代氏のターンとなっている。キタイの竜王・ヤンダル・ゾッグの魔手により陥落した中原の魔道王国・パロから辛くも逃れた人々が、それぞれの運命に翻弄される様子を描く。


 以前は宵野氏、五代氏がそれぞれに舞台を書き分けていた本シリーズ。ところがこのところは五代氏によって、すべての情勢がほぼ同時に進行するというなかなか忙しい展開となっている。新興宗教ミロク教の聖都ヤガで興った「新しきミロク(実際はヤンダル・ゾッグが手下を使って興したもの)」に対抗すべく集まったブラン、スカールほかジジィ一行の顛末を描くヤガ篇、黄昏の国に取り残されたスーティ(小イシュトヴァーン)と、宝玉「ミラルカの琥珀」に迫る魔手を描いたスーティ篇、ゴーラ王イシュトヴァ―ンに殺害されたカメロン提督の遺骸を携え、カメロンの故郷であるヴァラキアへと帰還したマルコ他ドライドン騎士団、そしてそれに合流したパロ宰相ヴァレリウス、魔導士見習いのアッシャ、パロ聖王レムスの妻で故郷アグラーヤで蟄居していたアルミナらの動向を記したヴァラキア篇、そしてパロを脱出したのちケイロニア王・グインに会うべく旅を急ぐパロ聖騎士リギアと、吟遊詩人マリウスらが主人公のケイロニア篇。数えるだけでも4つの物語が「4元生中継」で進行している。それでも徐々に物語は収束を迎えていて、たとえばヤガ篇などはバラバラだった登場人物が本書ラストでは全員(9名)集っており、ヤガ篇完結に向けた崩壊の序曲が今や鳴らされようとしている。特にヤガ篇は、栗本氏逝去で中断していたエピソードである。魔太子アモン誕生以来、竜王ヤンダル・ゾッグの魔手にかかったパロと中原を奪還すべく苦闘する人々の動きは、いまや大きな流れとなって中原全体へと波及しつつある。(2018.08.05)

2018年8月 1日 (水)

08/01 【聴】 「『イノベーターのジレンマ』の経済学的解明(伊神満、日経BP社)」

「『イノベーターのジレンマ』の経済学的解明(伊神満、日経BP社)」

 イェール大学准教授で経済学者。産業組織論、動学ゲームと技術革新の実証分析を専門とする筆者が、ハーバード大学教授であるクレイトン・クリステンセン教授が著した世界的名著「イノベーターのジレンマ」に経済学的な示唆を与えたという、これまた「破壊的名著」。2018年5月刊、クリステンセンによる「ふわっとした」イノベーションの力学を、筆者が数式とデータをもちいて「経済学的」に解き明かす。


 クリステンセンによる 「イノベーターのジレンマ」は、流行に疎い亭主ですら読んだことがあるくらいメジャーなビジネス本。亭主界隈でもクリステンセンの著作を読んだ人は意外と多く、飲み会の席などでたびたび盛り上がるほどである。「偉大な企業はすべてを正しく行うがゆえに失敗する」 。クリステンセンが著書に記したこの言葉は多くの技術者に衝撃を与えたが、おおむね「じゃあどうすりゃいいのよ」というモヤモヤとともに、個々の心の隅に押しやられている。「イノベーターのジレンマ」が語るイノベーションのからくりは、多くの企業・技術者にとって衝撃である一方、そのからくりがいまひとつ「ふわっと」しているため、分かったようでわからないようで、煙に巻かれたような気分にもなる。この「ふわっとした」部分を理屈と数字でしっかりと書き下し、分析・定式化することが本書の最大の目的である。


 伊神氏は、クリステンセン氏が語ったイノベーションのからくりに「共喰い」「抜け駆け」「脳力格差」の3つの視点を与え、ケーススタディを通じてイノベーションの力学をつまびらかにする。導入部は緻密かつ丁寧、ときおり鼻につく記述を我慢しつつ、本書を読むうえで必要な知識をインプットする。後半は大胆かつスタイリッシュ、「イノベーターのジレンマ」でも扱ったハードディスクドライブの技術開発の経緯を題材に、経済学で用いられる理論や数式を駆使して「共喰い」「抜け駆け」「脳力格差」の具体的なモデリングを試みる。イノベーションのからくりがモデルへと還元されると、様々なシナリオを仮定することで現実には起こらなかった様々なケースがシミュレーションできるようになる。コストや利益、投資などお金にまつわるシミュレーションの結果から、企業はどうふるまうべきだったのか、そして国民や政治はどのように振舞うべきだったのかが次第に明らかとなる。ただし、本書において「どう振舞うべきだったのか」はさして重要ではない。重要なのは、「そもそもの『問い』、その煮詰め方、そして何を『根拠』に、いかなる『意味』において、その『答え』が言えるのか」なのだ。結果はありきたりであっても、結果に至る洞察にこそ気づきがある。結果に至る道筋を楽しむことが大事だと、本書は結論付けている。(2018.08.01)

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