聴(軟)

2017年6月14日 (水)

06/14 【聴】 Everything At Once / John Beltran, Delsin(dsr-d4)

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 デトロイト・テクノ第2世代、John Beltranの最新作。Beltranといえば、1990年代はベルギーのR&Sレコードのサブレーベル、Apolloからアンビエント系テクノでメジャーデビューするなど活動当初はデトロイトと少し距離を置いていたようだが、現在はDerrick Mayが主宰するデトロイトテクノ・レーベルTransmatのコンピレーションには必ず参加、デトロイトテクノの代表的アーティストとなった。全17曲。


 デトロイト・テクノといえばオーケストラとのコラボが話題となったJeff Mills、ブラック・ミュージックとしての立ち位置を強めるMoodymannらの活躍が目立つ。Derrick MayやJuan Atkinsらデトロイト・オリジネーターたちの作風とは方向を異にするアーティストが多い中で、Beltranのそれはオリジナルに極めて近い。シンプルで、美麗で、内省的。聴く人のエモーションに訴えかける精神性の高さが本作にも備わっている。(2017.06.06)

2017年6月10日 (土)

06/10 【聴】 Folk Rocker / Stumble Bum, Deep Orange(XQJA-1001)

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 井上民雄(Vo., Guitar)と笠原敏幸(Vo., Bass)によるフォーク/ロック・デュオ、Stumble Bumの1stアルバム。2009年、ドラマーの椎野恭一氏が主産するDeep Orangeレーベルからアルバムリリースを果たした。もともと井上氏も笠原氏も1970~80年代からスタジオ・アーティスト、ライブ・アーティストとして数多くのアーティストをサポートしてきた超ベテランである。全9曲。


 現在は横浜を活動の拠点とするStumble Bum。「レイド・バック」(くつろいだ、リラックスしたの意)なアコースティック・サウンドが彼らの音楽の特徴だ。亭主などはこのアルバムを聴いてまずマッシュルームレコード時代の小坂忠を思い出した。素朴な歌いくち、田園風景をモチーフにした牧歌的な歌詞は小坂忠あるいは1970年代フォーク・シーンに直結している。ただ、かつてのフォークに比べると曲の展開がシンプルで、歌詞もメロディラインも地味である。ギターを片手に、心の赴くまま、指の動くまま自由にメロディを紡いでいる、そんなフリースタイルな曲が多い。「そうきばらず、まあゆっくりしていけよ」曲からのメッセージは常に穏やかで、優しい。


 亭主がこのアルバムを聴こうと思ったきっかけは、先日職場の飲み会で行った「楽天酒家おおみか店」にこのアーティストのチラシが貼ってあったからだ。なんとなく渚十吾が指向するオーガニック・サウンドを想像していたが、それよりももっと素朴な、オーガニックやアートといった横文字が似合わない時代のフォークに近かった。格別スタイルを強調することのない、自然発生したかのような彼らのサウンドが、疲れた心と身体に優しく響く。(2017.06.09)

2017年6月 4日 (日)

06/04 【聴】 Plays the Art of Noise / Anne Dudley, Buffalo|U/M/A/A(UMA-1092)

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 1983年、ZTT Recordsを主宰したUKの敏腕プロデューサーTrevor Hornが、Anne Dudley、J.J. Jeczalik、Gary Langanとともに立ち上げたユニットがThe Art of Noise。結成当初は正体不明のユニットとして、また大胆なサンプリングが特徴の前衛音楽ユニットとして好事家の注目を集めた彼らの作品を、Anne Dudleyがピアノでセルフ・カヴァーしたアルバムが本作となる。Trevor Hornが所属したバンドBugglesの大ヒット作「ラジオスターの悲劇」カヴァーを含む全16曲。


 Mr.マリック登場のテーマ"Legs"や、富士フイルムの化粧品のCMに使用された"Robinson Crusoe"など、超有名曲のカヴァーを数多く含む本作。Anne Dudleyによるピアノ演奏に加え、ピアノの箱を叩いたり、ピアノ線にモノを置いて音を歪ませたり (いわゆるプリペアド・ピアノの手法)といった様々なアプローチで自らの作品の再解釈を試みている。原曲に比べれば圧倒的にシンプルな楽器編成、しかしシンプルになればなるほど楽曲の前衛ぶり、パンキッシュな側面が際立つ。パンクというととかく演奏スタイルやヴィジュアルが強調されるが、The Art of Noiseのパンクにそういったコケオドシは存在しない。メロディ、アレンジ、ひいては音楽手法そのものが新しい。サンプリング・ミュージックという枠組みを外してもなおユニットとしてのアイデンティティを保ち続ける、The Art of Noiseの凄さをあらためて感じさせる。


 なおピアノアレンジという触れ込みからある種地味な作品を想像するひともいるかもしれないが、想像以上にバラエティ豊かで、変化に富む。亭主もここしばらくはこればかりを聴いていて、お気に入りのアルバムとなっている。(2017.05.25)

2017年5月27日 (土)

05/27 【聴】 Wynton Marsalis / Wynton Marsalis, CBS|Sony(SRCS-9173)

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 1961年、ニューオーリンズ生まれ。トランペット奏者Wynton Marsalisの1stアルバム。類まれなトランペットの才能からジュリアード音楽院に進学、在学中にジャズに出会った彼がHarbie Hancockのプロデュースにより制作したアルバムが本作となる。1981年にHarbieらとともに来日、メディアの「マイルス・デイヴィスの再来」との触れ込みで大いに盛り上がった公演の合間を縫って録音された4曲を含む全7曲。参加メンバーは、Branford Marsalis(Tenor Sax)、Herbie Hancock(Pieno)、Ron Carter(Bass)、Tony Williams(Drums)、Kenny Kirkland(Piano)、Clarence Seay(Bass)、Jeff Watts(Drums)、Charles Fambrough(Bass)。


 豪華なメンバーに囲まれ、半ば無理やり担ぎ出されてしまった感のあるMarsalisだが、そこは天才トランペッターとして名高い彼、メロディもまたアドリブもそつなくこなしている。バッキングの盤石さも手伝って、その演奏は堅実そのもの、破綻というものが一切ないというのは新人アーティストにとっては異例のことだ。実際彼はメディアによってその実力を大いに喧伝されたが、一方でしっかりと成果を出し、以降もジャズ・シーンの活性化とアーティストの権利確保に積極的に活動している。それにもかかわらずMarsalisの評価が国内外で低いのは、マイルスの影響が大きすぎたからか、メディア戦略にジャズマニアがあきれたせいか、あるいは彼がクラシック音楽のアルバムをリリースした成果は良く分からない。ただ、個人的には演奏のそつのなさがかえって個性を埋没させてしまっているように感じる。実際7曲入りアルバムは聴いてみると非常にスムース、あっという間に聴き終える。デビュー作らしからぬ練達の演奏だが、もう少しケレン味がほしいところだ。(2017.05.22)

2017年5月23日 (火)

05/23 【聴】 Complete Music / New Order, Mute(LCDSTUMM390)

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 UKはマンチェスターで結成されたデジロック/エレ・ポップバンド、New Order。1980年より活動を開始、石野卓球ほか多くのテクノ・アーティストに影響を与えた彼らが2015年にリリースしたアルバム"Music Complete"の完全版が本作。オリジナルでは全11曲、アルバム1枚にまとめられていた作品が、2枚組アルバムとしてアレンジされている。


 曲順などはオリジナルアルバムと同じく。すべての楽曲が"Extend Mix"というヴァージョンであり、平たく言えば「ロング・バージョン」となる。メディアなどで紹介される際にコンパクトにまとめられたオリジナルに対して、本作は美味しいところ、気持ち良いところをしっかりと聴かせてくれるいわば完全版。テクノ/エレクトロニカではキモというべきループ・ミュージック、ダンサブルなビートがしっかりとフィーチャーされていて、彼らのルーツがテクノであることを感じさせてくれる。オリジナルアルバムを所有している人がこれを買う必要があるかどうか、については微妙。ファンならばマストなアイテムであることは間違いない。(2017.05.19)

2017年5月21日 (日)

05/21 【聴】 For Good Mellows / Cantoma, Suburbia(SUCD-2001)

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 UK出身のDJ Phil MisonのプロジェクトCantomaのアルバムから、橋本徹(Suburbia)がセレクトしたベスト・アルバム。橋本のレーベルSuburbia Recordsからのリリース、82分、全15曲という圧倒的なボリュームは、先に述べたGigi Masinのベストと同じく。


 イビサのクラブCafe Del MarでJose Padillaのプレイを聴き彼に弟子入り。以降同クラブで2年間レジデントDJを務めるなど、イビサ系バレアリックサウンドの代表的なアーティストのCantoma。本作は彼のアルバム"Out of Town"、"Cantome"、そして"Just Landed"から14曲、未発表曲1曲がセレクトされている。バレアリックサウンドと名付けられているが、本作は具体的にはディープハウスやスピリチュアルハウスに近い。ビートは弱め、音楽で踊るというよりも、音楽を浴びるといったほうがしっくりくる美麗なサウンドが特徴的だ。チルアウトでメロウなサウンドはSuburbia Recordsのシリーズに共通するが、アルバム/アーティストごとにそのアプローチが異なるせいか、どのアルバムも十分に個性的。なかでもCantomaはヴォーカルとインスト、ダンサブルな曲とアンビエンティックな曲とのバランスが良く、アルバム1枚のなかでどんどんと展開していくのが良い。言わずと知れた橋本氏のセレクション、しかし困ったことにこのアルバム聴けば、Cantomaの全貌が見えたと思わせてしまうあたりが悩ましい。(2017.05.11)

2017年5月16日 (火)

05/16 【聴】 For Good Mellows / Gigi Masin, Suburbia(SUCD-2002)

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 橋本徹(Suburbia)が主宰するレーベルSurburbia Recordsから、イタリア出身の作曲家・プロデューサーGigi Masinのベストアルバムが登場。Suburbiaの人気コンピシリーズ"For Good Mellows"の新たな試みとして、単独アーティストをフィーチャーしたアルバムが本作となる。1986年から2016年までリリースしたアルバム10枚から、ほぼ満遍なく網羅・セレクトした15曲に、未発表曲1曲を追加した全16曲。


 ピアノ・アンビエントを得意とするGigi Masin。地中海のイビザ島のクラブ/レイヴイベントに端を発するバレアリック・サウンド、地中海の開放的・享楽的な雰囲気に一息ついた、チルアウトなサウンドというのが、本作のざっくりとした立ち位置らしい。ただ、イビザもバレアリックも、食い込み水着も関係ない亭主的にはそんな立ち位置など知ったことではなく、たとえばPenguin Cafe Orchestra、あるいは坂本龍一のアンビエント作品をより端正に仕上げた作品と認識する。彼の作品に特徴的である八分音符の連打によるビートの維持。ドラムほかリズムセクションが存在しない中で、ピアノあるいはシンセによる八分音符のビートが妙に心地よく、まるでらせん階段を下るかのようにどんどんと引き込まれていく。主旋律である(こちらも)ピアノのメロディ、ときにアドリブのように奔放な演奏が、八分音符のビートと好対照をなす。


 本作の収録時間は82分25秒。ベストアルバムだとしてもかなり詰め込んだ内容となっている。アナログ時代からすればアルバム2枚分の分量になるのだから恐れ入る(こんなに長時間録音されているCDはめったにない)。Gigi Masinの魅力が存分に伝わる力作。ピアノ・アンビエントに興味のある方はぜひどうぞ。(2017.05.08)

2017年5月11日 (木)

05/11 【聴】 Family Swing / YMCK, Not(NOT0013)

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 除村武志、中村智之、栗原みどりの3人からなるチップチューン・ユニット、YMCKの7枚目フル・アルバム。都市国家「レトロフエゴ広告」で開かれる博覧会を舞台に、怪盗YMCKとそのライバル「スウィンガーズ」によるお宝争奪戦の顛末を、サウンドトラック仕立てとした意欲作。全12曲、De De Mouseが主宰するレーベル"Not"からのリリース。


 ジャズ×アクション×チップチューン。映画のサウンドトラックよろしく、怪盗たちのドタバタストーリを歌と音楽で描いた楽しい作品。ジャズはいわゆるスウィングジャズ。ポップ・ミュージックのメロディとは一味違う、オトナなサウンドが耳新しい。ジャズのメロディラインは、多くの場合ピアノやサックスのソロや即興演奏によって形作られる。うねるような演奏をヴォーカルで、しかも日本語歌詞つきで歌い上げるというのは、かなり難度の高いワザのはず。それをしっかりとこなしてしまうあたり、そんじょそこらのチップチューン、テクノポップ系のバンドとは一味も二味も違う。格が違う。


 それにしてもYMCK、本作でジャズをフィーチャーしたとはいうものの、その音色はといえば相変わらずのPSG(もちろんエミュレーションだ)。ドラムはノイズ、ベースはノッペラの低音、そのほかは矩形波サウンドで済ませてしまうというから、その胆力はすさまじい。アルバムを重ね、キャリアを重ね、新しいジャンルへチャレンジするにあたっては、どこかで生楽器やサンプリング音源を使いたくなっても仕方ないのに、彼らはひたすらにチップチューン、まったくブレることがない。ファミコン・ゲームのBGMと聴き間違うチープなサウンドで、しっかりと映画の世界観を構築している。何度聞いても飽きないのは、彼らのバックボーンに豊かな音楽世界が存在しているからなのだろう。(2017.04.19)

2017年5月 9日 (火)

05/09 【聴】 Dreams You Up / De De Mouse, Not(NOT0015)

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 自身のレーベル"Not"から着実にアルバムリリースを重ねるほか、ライブイベントでの活躍も目覚ましいDe De Mouseの最新作。「架空のSFアニメの若いパイロットたちの間で話題のヒットミュージック」をテーマに、インターネットと1980年代を直結させた刺激的なデジタル・ミュージック。全11曲。


 アニメ的というイメージもさることながら、亭主などはまず本作から「ゲームミュージック」のイメージを強く感じた。ヒップホップ、デジロック、テクノポップなどジャンルを屈託なく使い分け、ハイスピードで爽快なダンスミュージックへと仕上げた本作は、シューティングゲームのBGMによく合う。古代祐三、細江慎治、あるいは佐宗綾子らテクノ系クリエータが得意とする、強炭酸でテンションの振り切れたゲームミュージック。かつてはゲームの内容に合わせてジャンルを右往左往させていたゲームミュージックが、クリエータの個性によってその軸足を定め、ゲームの内容すらもクリエータの個性が決めていく。本アルバムにはそんなゲーム新時代のサウンドがたっぷり詰まっている。もちろん、本アルバムにおけるクリエータの個性とはズバリ"De De Mouse"の個性。サンプリングした子供の声(あるいは音声合成か?)をカットアップの手法でつなぎ合わせ、どんな国の言葉でもないヴォーカルを作り出した彼の方法論は本作にもしっかりと活かされている。結果、アニメ的、ゲームミュージック的ではあるがしっかりと彼の作品としての個性も発揮した、刺激的なアルバムに仕上がっている。(2017.04.19)

2017年5月 7日 (日)

05/07 【聴】 Arca / Arca, XL Recordings(XLCDJ834)

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 ベネズエラ出身、ロンドン在住の鬼才、ArcaことAlejandro Ghersiの3rdアルバム。XL Recordingsに移籍してのアルバムは、なんと彼自身がヴォーカルを担当。前作Zen, Mutantで話題を呼んだ狂気のエレクトロニック・サウンドが、彼の声によってドラマ性を持った。日本盤はボーナストラック1曲を含めた全14曲。うち9曲でヴォーカルを披露している。


 自分はどこから来て、どこへ行くのか。誰しもが自らに問いかけ、そして答えを得ることなく一生を過ごしていくなかで、Arcaの問いはさらに切実である。自身の出身であるベネズエラはチャベス大統領死去後深刻な危機に直面し、産油国にもかかわらず人々は貧困にあえいでいる。ベネズエラでは決して受け入れられないセクシュアリティの問題を抱えた彼は、その歌詞に自らの苦悩を叩きつける。歪み切ったサウンド、オペラのような荘厳なアレンジ、美しさと狂気と苦悩とが入り混じった電子音響は、Jesse Kandaによる異形のジャケットとあいまって独特な雰囲気を醸し出している。


 亭主が彼のサウンドを本当に理解できているか、彼の苦悩を理解できているかといえば、自信がない。単純に、ビョークやカニエ・ウェストらが絶賛し、彼らとコラボレーションを果たしたという若き才能が生み出す新しいサウンド、音と感情とが直結する、音楽と非音楽との境界線上にある音響に興味があるだけなのかもしれない。深淵を覗き込むときの恐怖と好奇心、眼前に全く新しい眺望が広がる可能性を彼の作品に託しているのかもしれない。(2017.04.09)

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