聴(軟)

2020年9月24日 (木)

09/24 【聴】 X-Mix Wildstyle / DJ Hell, !K7(K7039CD)

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 ドイツはベルリンを拠点とするテクノ/エレクトロニック・レーベル、Studio !K7がリリースしたDJ Mixシリーズ"X-Mix"より、ドイツ出身のテクノ・クリエータ/DJ/プロデューサDJ Hell(Helmut Josef Geier)のミックスが登場。シリーズ全10作目のうち5作目となるアルバム、DJ Skull, Surgeon, Ron Trent, Random Noise Generationなど、ちょっと「濃い」テクノを集めたマッシヴなDJミックス。1998年リリース、全19曲。


 DJ Hellに「濃い」イメージが付きまとうのは、多分彼のアルバムのジャケットの影響が大きいのだろう。名うてのギャンブラー、ジゴロ、あるいはマッチョイズム。ジャケット・デザインと同時に収録曲もどこか人を喰ったというか、ねっとり感のあるものが多いので、好きな人は好き、苦手は人は苦手―――とちょっと人を選ぶ内容になっていた(ような気がする)。実際、亭主も「ジャケ買い」ならぬ「ジャケ買わず」で購入を思いとどまったものも少なからずある。LGBTを髣髴とさせるものもある。こういった癖の強いトラックは、どちらかといえばイタロ・ハウスやシカゴ・ハウスあたりに任せた方がよいのではないかなどと思いつつ、ちょっと敬遠していたことは確かだ。


 一方、本ミックスにもたしかに「濃い」部分はあるものの、テクノやエレクトロのストイシズムが十分に感じられ、個人的には好印象。骨太なテクノに、味付け程度の「濃い」ネタはむしろトラックを前へと進める推進力となってくれる。(2020.09.07)

09/24 【聴】 X-Mix Transmission from Deep Space Radio / Kevin Saunderson, !K7(K7061CD)

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 ドイツはベルリンを拠点とするテクノ/エレクトロニック・レーベル、Studio !K7がリリースしたDJ Mixシリーズ"X-Mix"より、デトロイト・テクノのオリジネーターの一人Kevin Saundersonのミックスが登場。シリーズ全10作目のうち9作目となるアルバム、"R"-Thyme, Plastikman, Octabe One, Dark Comedyなどデトロイト系アーティストのトラックをふんだんに取り入れたスペーシーなミックス。1997年リリース、全22曲。


 ミックスのタイトル"Deep Space Radio"の名前の通り、「深宇宙から流れてくるラジオ番組」というのがアルバムのコンセプト。Kevinが得意とするハウス・テイストのトラックが次々とつながる中、ときおりジングル(ラジオの番組とCMを区切る短い曲)のようなフレーズ、そして女性のヴォイスが重ねられていて、たしかにラジオ放送を聴いているような気分にさせる。宇宙をタイトルにしているが、アンビエント基調の、浮遊感のあるトラックはない。軽快で、スタイリッシュ。漆黒の闇の中を高速でクルージングしているような、そんな疾走感のあるトラックが次々と現れて小気味よい。「宇宙」をテーマにしたテクノといえばJeff Millsが特に有名だが、あちらほどディープでも、ミニマルでもない。宇宙空間でたまたまラジオを付けたら聴こえてきた、超空間からの海賊放送。そんなイメージで聴くとよいかもしれない(2020.09.07)

2020年9月18日 (金)

09/18 【聴】【読】Blue Giant Live Selection / 石塚真一, 小学館

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 石塚真一の大人気ジャズ・コミック「ブルー・ジャイアント(全10巻)」より、主人公でサックス奏者の宮本大の演奏回を集めた作品集「ブルー・ジャイアント・ライブ・セレクション」が8月に発売された。
本アルバムはコミックをより楽しむための教材(?)として添付されたもの。往年のジャズ・ジャイアント8組の名演が収録されている。


 収録曲およびアーティストは以下の通り。



  •  M1 Impressions / John Coltrane

  •  M2 Softly, As in a Morning Sun / Sonny Rollins

  •  M3 Waltz for Debby / Bill Evans

  •  M4 A Night in Tunisia / Art Blakey and Clifford Brown

  •  M5 Airegin / Stan Getz

  •  M6 Blue Monk / Thelonious Monk and John Coltrane

  •  M7 Manteca / Dizzy Gillespie

  •  M8 Filthy McNasty / Horace Silver


 リストをみればわかるとおり必ずしもサックスの曲ばかりでなく、またコミックの各話のサブタイトル(曲名がつけられている)と連動しているわけでもない。スタジオ録音あり、ライブ録音ありと選曲の意図が今一つ見えないが、いずれも有名アーティスト、有名曲でありコミックスと連動せずともそれなりに楽しく聴ける。あまり細かいことは気にせず、連載時と同じ大判の紙面を、ジャズの音楽とともに楽しんでほしいということなのだろう。


 なお、コミックに収録されているエピソードは宮本大の日本でのエピソード(つまりブルー・ジャイアントのエピソード)に限られていて、直接の続編であるヨーロッパ編(ブルー・ジャイアント・シュプリーム)、最近始まったアメリカ編(ブルー・ジャイアント・エクスプローラー)の内容は含まれていない。ボーナストラックとしてシリーズ終盤で入院するピアニストの沢辺雪祈(ユキノリ)が、故郷である長野に転院するエピソードが収録されているので、ファンはこのエピソードを目当てに買うのもよいかもしれない。


 ちなみに、M7 Manteca / Dizzy Gillespieはアフロ・キューバンを意識した、思わず体が動いてしまう楽しい曲。ブルー・ジャイアントの世界観とは違うかもしれないがジャズの応用編として楽しんではいかが(2020.09.05)


2020年9月17日 (木)

09/17 【聴】 Hi-Posi Cassette - Hi-Posi Early Days 1988-1993 / Hi-Posi, Disc Union|Super Fuji Disc(FJSP399)

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 もりばやしみほ(Vo, Keyboard, Liric)と近藤研二(Guitar)のテクノポップ・デュオ、ハイポジの初期自主制作カセット「天下のハイポジ」(1989年)と、「ハイポジデモテープ93秋(通称バカザル)」(1993年)の2枚のアルバムをカップリングした豪華盤が本作。「天下の~」の12曲、「バカザル」の6曲あわせて18曲が収録されている。「松前公高 Works」「誓い空しく」などなどこのところ再発が続く京浜兄弟社関係のアルバムの一枚。

 京浜兄弟社以前から最近まで、長い歴史を持つハイポジ。東芝EMIから4人組バンドとしてメジャーデビューしたほか、もりばやし・近研のユニットとしてKITTYからマキシをリリースするなど、形態やレコード会社を替えつつ、息の長い活動を続けている。本作に収録されている曲の多くは、東芝EMIからリリースされた2枚のアルバム「写真にチュー」「Com'on Summer」に収録されている曲のインディーズ・バージョン。ただし本作をリリースした時点で楽曲としては完成の域に達していて、バンドとしての完成度の高さ、実力の確かさがうかがえる。もりばやしみほ(しんりんちゃんというらしい)による歌詞やヴォーカル、近研さんのギター・プレイ、そしてEXPOの松前氏による凝りまくったアレンジなど、インディーズとは思えない質の高いトラックが本作の売りだ。

 そしてもう一つ、特筆すべきはバンドのコンセプトがしっかりしていること。バブル全盛期に誕生したインディーズ・バンドの多くが「おこちゃま」を意識した可愛いテクノポップを指向したなか、ハイポジの「おこちゃま」はちょっと異質というか、どこか達観したものがある。大人が見過ごしがちな些細なもの(例えば「虫」や「石ころ」)に注目するあたりは確かに子供的なのだが、その視線には命への慈しみが込められている。ハイポジの世界では、虫も、石ころも、自分自身もすべてが同じスケールで語られ、そのどれもが美しく、愛おしく、そして哀愁に満ちている。(2020.08.23)

2020年9月 9日 (水)

09/09 【聴】松前公高 Works 1989-2019 / 松前公高, Disc Union|Super Fuji Disc(FJSP397)

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 電子音楽家、EXPOでの活動、Hi-Posiほか様々なユニットへの参加、ゲーム音楽やTV挿入曲など多彩に活躍する松前公高氏の30年の活動を集成したアルバム。全58曲という怒涛の分量をディスク2枚に収めている。


 テレビ番組のオープニング/エンディングテーマ、イベント音楽、ゲーム音楽―――日常の様々な場面に入り込み、ごく短時間耳に触れるだけの音楽が、これほどまでに集まるのは実は結構珍しい。坂本(龍一)さんのように定期的に、計画的にアルバム化する場合や、細野さんのように、思い出したように蔵出ししてくる場合もあるが、いわゆるこういった「小さな仕事」は埋もれてしまうのがほとんどなのだ。もちろん、音楽をPC上で編集・管理することで、データとしてしっかり残っている、というメリットはあるだろう。だがやはりこれだけの分量を、しかも30年という長きにわたってしっかりと管理している松前さんの物持ちの良さ、マメさにはとにかく驚かされる。多分どこかで聞いた事があるであろう、しかしどうしても思い出せない小ネタ的な音楽の数々。おもちゃ箱の中のように無造作に転がるこれらの音楽を、一つ一つ取り出しては眺める、そこにあるのは懐かしさだろうか。それとも物珍しさだろうか。

 松前さんといえばアナログ・シンセの使い手としても有名で、なかでもTransonicレコードからリリースされたアルバム"Space Ranch"は亭主の超絶お気に入りになっている。アナログのドスの効いたシンセ音、デジタルでは再現しようのないリヴァーブやエコーのボリューム感など、現在においてもこのアルバムと比肩しうるシンセ・サウンドに出会ったことがない。


 本作にもアナログ・シンセの作品が少なからず収録されているが、やはり迫力が違う。どれはゲームの音源で、どれはアナログ・シンセで―――と、あれこれ音を推測しながら聴くのも楽しそうだ。(2020.08.20)

09/09 【聴】 Japan's Period / No Lie-Sense, ナゴムレコード|Ultravybe(CDSOL-1635)

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 鈴木慶一とケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)のユニット、No Lie-Senseのセカンド・アルバム。全11曲、「君も出世ができる」「ミュータント集団就職」「労働者たち」などなど、昭和歌謡とナンセンスな歌詞をフィーチャーした、独特の世界観が楽しめる作品。2016年、かつてケラ氏が主宰を務め、No Lie-Sense活動開始により再始動を果たしたナゴム・レコードからのリリース。


 アルバムコンセプトは昭和の黄金時代、高度経済成長期、だろうか。戦後急激に発展を遂げ、と同時に激しく歪む日本の有様を、近い将来起こるであろう日本の終焉に絡め、皮肉たっぷりに描き出している。シニカルな笑いとともに過去と未来が同居する不思議な世界観は、彼らなりの「ダダ」の表現なのだろう(サード・アルバム「駄々録」を先に聴いていたからこそ得られる気付きだ)。虚無感を基調とする「ダダ」の世界観と、狂信的・盲目的に突撃を続ける日本人の価値観が渾然一体となり、圧倒的な徒労感となって聞き手に迫る。救いはどの曲も「ナンセンス」に仕上がっていてちょっと聴きには面白おかしいポップスであること、だろうか。笑いは、絶望や不幸から人々を解放する一種の鎮痛薬である。


 アルバムタイトルである"Japan's Period"のPeriodは、「終止符」というより「時期」「期間」「段階」「一区切り」と解釈するほうが精神衛生上好ましい。世紀末がやってきても世界が終わらなかったように、これからも世界と日本は「区切り」を繰り返しつつ動き続ける。


 おそらく、多くの人間が「終焉」を望んでいる。それは「人類の滅亡」や「世界の破滅」であると同時に、それぞれの苦境から解放されるという「救い」でもある(まさしくキリスト教の教義ではないか)。だが残念なことに、そう簡単に問屋は卸してくれない。大災害や犯罪に巻き込まれてもそこで人生が終わることはそうそうない。苦境は以降もまだまだ続く。ならばいっときでもその苦境から目を背けることのできる鎮痛薬としてのナンセンス・ポップの役割もまた、まだまだ終わらないということになる。


 盛大に話が逸れたけれども、まあ、そんな感じ。(2020.08.16)

2020年9月 4日 (金)

09/04 【視】 Princess Connect ! Re:Dive I / Cygames, Happinet(CYGX-00001)

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 Cygamesより配信されていたソーシャルゲーム、「プリンセスコネクト!(略称:プリコネ)」の直接の続編として配信中の"Re:Dive"。前作の世界観を踏襲しつつ、ゲーム内の登場人物がオリジナルストーリーの中で縦横無尽に活躍するアニメ作品が本作となる。なお本作は2020年4月~6月までTokyo MXで放送されたもの。今回はBlu-ray版を購入した。


 仮想空間に構築されたファンタジー世界・アストルム。舞台はアストルムの一都市、ランドソル近郊に降り立った記憶喪失の主人公を、一族の命を受け主人公に仕えることとなったコッコロが迎えるところから物語は始まる。旅の道行き偶然出会ったアストライアの王女・ペコリーヌと、組織の指示で彼女を付け狙う魔法使い・キャルに出会った主人公らは、ペコリーヌの発案でランドソルに美食ギルドを結成する。


 まず亭主はRe:Diveを未プレイなので、ゲーム版とアニメ版の違いや世界観などは全く分からない。苦労人のコッコロさん、天真爛漫なペコリーヌ、ツンデレのキャル、そして多くの謎を秘めつつのんびりとした時を過ごす主人公と作品全体の雰囲気はつかめたものの、さてストーリー展開は早いのか遅いのか、重要な方向へと転ぶのか、それともこのままドタバタに終始するのかさっぱり見えないあたりがなんとも評価がつけにくい。毎回登場する料理の数々もリアリティに乏しく、さてどうしたらよいか、次のエピソードを待って評価するのが良いかと、思案しているところである。


 ともあれ個人的にはコッコロさん(なぜかさんづけ)の献身ぶりが心地よく、控えめながらもしっかりと存在感を示しているあたりが好印象。ちなみにコッコロさんといえば現在絶賛稼働中のグランブルファンタジーとのコラボでゲストとして登場し、主人公を強力にサポートしてくれる。亭主もコッコロさんをパーティのメンバーに含め、日々イベント周回にいそしんでいるところである(2020.08.08)

2020年9月 2日 (水)

09/02 【聴】 First Suicide Note / No Lie-Sense, ナゴムレコード|Ultravybe(CDSOL-1542)

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 鈴木慶一氏とケラ氏による新ユニット、No Lie-Senseのデビューアルバム。権藤知彦、上野洋子、野宮真貴、緒川たまき、犬山イヌコ、大槻ケンヂほか豪華アーティストが参画、新生ナゴムレコード第1弾として豪華賢覧なナンセンス・ポップを聴かせる。全10曲。


 亭主は3枚目のアルバム「駄々録」を先に聴いていて、No Lie-Senseのメインコンセプトが「ダダイスム」であると知っているので、本アルバムの理解も早かった。人生に対する圧倒的な虚無感、人生に意味などないと理解しつつ、それでももがきながら生きなければならない人間の徒労感や疲労感を、ナンセンスな歌詞とポップなサウンドで歌い上げる。「駄々録」もそうだったが、No Lie-Senseの曲はとにかく歌詞がいい。日常の細かいところ、ありふれたところをあえて目を向ける視点のユニークさ、下品にも幼稚にも陥らずに、それでもしっかりバカバカしい。「手のひらを太陽に」を元ネタにして生きる意味をしっかり否定する「僕らはみんな意味がない」、中年の慢性的な疲労感を逃避行動にからめて切々と歌い上げる「だるい人」などなど、年経れば経るほどに肉体感覚としてわかってしまうのは、亭主がすっかり老境に入ってしまったからなのだろう。


 「ダダイスム」のコンセプトが明らかとなるのは次作以降だが、No Lie-Senseが目指すところの面白さは本作でもしっかりと伝わってくる。鈴木氏、ケラ氏によるアレンジの奥深さ、ゲストによる重厚なコーラスも聴き所。ナンセンス・ポップと侮るなかれ、ベテラン二人の本気度が知れる渾身のポップ・サウンド(2020.08.16)


2020年8月26日 (水)

08/26 【聴】Da Da Logue(駄々録) / No Lie-Sense, ナゴムレコード|Better Days|Columbia(COCB-54298)

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 ムーンライダース、The Beatniksなどでの活動でも知られる鈴木慶一氏と、ナゴムレコード主宰・有頂天、ザ・シンセサイザーズなどのユニットでも活動するケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)氏のユニットがNo Lie-Sense。ユニットとして3枚目となる最新作は、「ダダイスム」をもじった諧謔のダイアローグ。「ダダ」に「駄々」を重ねたナンセンス・ポップが、聴く人を不条理の渦へと引きずり込む。全12曲。

 Wikipediaによれば、ダダイスムとは1910年代半ばにヨーロッパやニューヨークで同時多発的に発生した芸術運動で、第1次世界大戦に対する抵抗やそれによってもたらされた虚無を根底に、既成の秩序や常識に対する否定、攻撃、破壊といった思想を特徴とするのだという。日本には1920年にその考え方がもたらされ、作家や詩人、芸術家などに大きな影響を与えたと書かれている。

 本アルバムが言及する「ダダ」の思想は、鈴木氏やケラ氏によって「駄々(=分別を欠いた我儘な行動)」と結びつけられ、御年68歳となった鈴木氏、57歳のケラ氏という二人が老いさらばえていく姿として描かれる。実際、本アルバムには彼らが直面する「老い」、逼塞状態にある世界の「終末観」、そして若者や自由のメタファーとしての「鳥」というキーワードが頻繁に現れ、この世界の行く末がペーソスをもって歌い上げられている。「老い」によって混濁する意識は、楽曲をありえない方向に展開させる。行ったまま帰ってこない主題、曲の途中での混乱、曲中曲、様々な音楽素材のコラージュなどなど、 ちょっと聞きにはカオスな楽曲構成も、実は様々なアイデアがふんだんに投入された、楽しいアルバムへと仕上がっている。

 ところで本作を、どんなジャンルの音楽と位置づけるかはちょっと悩ましい問題である。

 ナンセンスな歌詞と、昭和初期に流行したかのような前時代的なリズムとアレンジは、高度経済成長期ならば「コミックソング」などと呼ばれていたものだろう。フォークソングがニューミュージックとなり、J-Popと移り変わる途上で、ナンセンスな歌詞を特徴とするポップ・ミュージックもまた多く作られ、例えばバブル期に隆盛を極めたインディーズ・ロックやテクノ・ポップ、あるいははにわオールスターズやモダンチョキチョキズ、米米CLUBといった大編成バンドのレパートリーとして、ポップスの一角にしぶとく鎮座していた。バブルが弾け、平成不況が長期化し、大地震や伝染病や台風や豪雨などによって日本国内が常に暗雲立ち込める状態へと陥ってからは、ポップスが作り手自身の内的世界に埋没し、愛とか恋とか、感謝とか絆とか、基本的に頭を使わず、金もかからないテーマに執着しがちとなり、ナンセンス・ポップは必然的に影をひそめてしまった。シリアスな現代にナンセンスな音楽はそぐわないという意見もあろうが、ではいつならば良いのかと改めて問うてみても、ナンセンスな音楽がフィットする時代が将来的に来るという予測が立つ見込みもない。

 結局のところナンセンス・ポップは「いつ来てもいい」し「なんだったら今来てもいい」し「来なくてもいい」し、つまるところ「どっちでもよい」し「どうでもよい」のだ。「駄々録」の「駄」は「無駄」「駄作」「駄目」「駄洒落」の「駄」でもある。ますます老人に磨きのかかったお二人の「地団駄」が生み出した「駄」な作品、じっくり聞けばなかなかどうして味わい深いが、そこはさっくりと通過して大いなる「駄々」と「ダダ」の世界を堪能してもらいたい(2020.08.14)

2020年8月19日 (水)

08/19 【聴】あなたはキツネ BEST + 40 TRACKS / 松前公高, Disc Union|Super Fuji Disc(FJSP395)

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 テクノアーティスト松前公高が、1978年から1996年までに制作したトラック・音源を4枚のアルバムに集成した自主制作CD「あなたはキツネ1~4」。この4枚のCDからさらに61曲を厳選、さらに未発表・レアトラック40曲を新たに加えたベスト・オブ・ベストが本アルバムとなる。2枚組でDisc1に37曲、Disk2に64曲を収録。国内でも有数のアナログ・シンセの使い手となる松前氏の極太な電子音楽が存分にたのしめる作品。


 2~3分のショート・トラックを雑多に詰め込んだベストアルバムは、松前氏に限らずこれまでに多くのアーティストが指向してきたところで、聴き手を選ぶ、コアなファンに向けた作品が多いのは音楽ファンならばよく知っているところだろう。コアなトラックは何の脈略もなく4枚のアルバムにちりばめられていて、トータルのコンセプトや、前後の曲との接続すら不明瞭なまま、聴き手はぼんやりと音楽を楽しむしかない。まして大量の曲数がひしめいては、ひとつひとつの曲の個性を気に掛ける余裕もなく、なかなか「ひとつのアルバム」として聴くのは難しい。実際、曲調も曲名もバラバラで、ひとつの作品、アルバムとしてのストーリを語ることはできない。さてどうしたもんかと思案するうち10日、20日、気が付くと一か月が経過していたと、そんな状況である。


 レビューの難しいベストアルバムの本作であるが、脈略を気にせず、はじめと終わりを意識せず、まったりと聴くとなかなかいい感じである。エッジの効いたテクノ、おもちゃ箱をひっくり返したかのようなエレクトロニカ、様々なトラックが入れ代わり立ち代わり現れる。ただ、アルバムを通して聴いてみると「習作」「プロトタイプ」というものはあまりなく、むしろちゃんと「完成品」であることに気づかされる。もともとそれぞれに製作意図があり、ストーリーがあったはずのトラックが、こうやって雑多に、2枚組CDとして詰め込まれている意味はどこにあるのだろうと、そんなことを思わせたベスト・アルバムである(2020.07.24)

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