聴(軟)

2019年11月 8日 (金)

11/08 【聴】Transmission Suite / 808 State, Ingrooves(808STATE006CD)

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 Graham MasseyとAndy Barkerの二人からなるアシッド・テクノのユニット、808 Stateの最新アルバム。マンチェスター系の元祖として、80年代から活動を続けるベテランが17年ぶりにリリースしたアルバムとのこと。全15曲。

 TR-808を駆使したテクノ・サウンド。マッシブなシンセの音色と、キャッチ―なメロディが交錯する、どこか懐かしいサウンドに仕上がっている。この頃のテクノ/エレクトロニカといえばどれも辛口かつストイックで、クラブなどで雰囲気に合わせて体を動かすには良いのだけれど、オーディオシステムで聴くと意外と耳に残らない、没個性なものが多かった。原因はなんだろうとつらつら考えてみるに、なんというか、作りてが「キャッチー」をあえて避けている感じがしてならない。言い換えるならば「あざとさ」、例えばあえてネタに走ってみたり、 ベタなフレーズを奏でてみたりといった「遊び」の部分がずいぶんと少なくて、亭主などは率直に「つまらない」と感じてしまうのだ。

 対する808 Stateの本作は、ベタな部分をあえて狙って「三枚目」な雰囲気を醸し出している。かつてのテクノといえばこんな三枚目な作風が多かったし、マンチェスターとか、コーンウォールとか、シーンの中でもバリエーションがあった。今はシーンそのものが失われていたり(というか別の場所に移ってしまったり)、盛りあがりの期間が極端に短かったりする。17年ぶりのアルバムリリースは確かにうれしい話なのだが、さて彼らはどこで活躍しているのだろう、彼らの周囲にどんなシーンがあるのだろうと見渡しても、一向にシーンが見えてこないあたりが残念である。

 亭主はかつてYMOの散開で長らくテクノの潮流を見失い、あれこれさまよった経験がある。Ken IshiiのJerry Tones、Derrick MayやJuan Atkinsのデトロイト・テクノに出会うまでは、本当に暗黒時代が続いていた。現在もまたテクノの潮流を見失っている真っ只中である。Youtubeやタワレコの店頭にテクノの小さな流れが見受けられるものの、メインストリームとなるにはまだまだ時間がかかりそうだ(2019.10.29)

 

2019年10月24日 (木)

10/24 【聴】City Folklore / Hiroshi Takano, Sunburst(SBST-009)

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 富田恵一(富田ラボ)プロデュースによる高野寛デビュー30周年記念アルバム。「ベステンダンク」セルフカヴァーを含む全9曲に、ボーナストラックとしてデモバージョン、ライブバージョンの7曲を追加した全16曲。


 自身のソロアルバムのほか、GANGA ZUMBA、pupaなどバンドのギタリストとしての参加、YMO/HASYMOのサポート、アルバムプロデュースなど多彩な活動で知られる高野さん。このところはコンスタントにソロ・アルバムをリリースするほか、3枚組オールタイム・ベストの発表、ライブ・ツアーの敢行など30周年記念の企画も目白押しとなっている。11月あたりまではライブで忙しいようで、先日は仙台でのライブ、仙台のラジオ放送へのゲスト出演など、積極的にプロモーションを行っているようだ。本アルバムは、30周年記念企画の一つ、といえるのだろうが、個人的には企画モノというよりも、東京という街の心象風景を描いた私小説風ポップスという趣を強く感じる。もとより高野さんの作る曲はエバーグリーンなポップスが多いのだけれど、アルバムによって視点(というか年代)が変わる。青春真っただ中の青少年の視点を持つ曲がある一方で、達観した人生観・視点を持つ曲もある。本作の視点はずばり前者なのだけれど、楽曲のアレンジが良い感じに80年代していていることもあって、最後まで亭主の琴線に響きまくる作品となった。亭主の父親の世代ならば「懐メロ」とでもいえそうな曲、さしづめ亭主ならば「青春ポップス」とでも呼ぶだろうか。


 数ある曲の中から亭主が1曲を選ぶとしたら、少し悩んで"Tokyo Sky Blue"を推す。曲がまとう雰囲気、「東京」という言葉がもつ根拠のない希望に、かつての亭主の心境が重なる。サビの部分「とうきょう、すかいぶるー♪」が80年代ポップス、歌謡曲を思わせるメロディなのがまたいい。かつて深夜ラジオから流れてきた曲、聴きなれない名前の音楽番組から流れてきた曲はこんな曲だっただろうか。(2019.10.09)


2019年10月18日 (金)

10/18 【聴】Too Much / Dego, 2000 Black|P-Vine(PCD-24864)

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 もと4Hero。現在はSilhouette Brown, Kaidi Tathamらとともに2000 Blackレーベルを運営するDegoの最新作。女性ヴォーカリストNadine Charles, Samii, Ivana Santilliらとのコラボにより作られたUKブラック・ミュージックの至宝。全15曲。


 かつてはドラムンベースの雄4Heroのメンバーとして存在感を放っていたDego。2000 Blackレーベル設立以降は作風をUKハウスへと移し、ハイセンスなブラック・ミュージックを指向してきた。ボディ・ミュージック的なダイナミズムを徹底的に排し、ストイックかつモノクロームな色彩を強調した作風は、レーベルのブランディング、イメージ戦略に成功している。爆発的なヒットはないものの、コンスタントなアルバムリリースは亭主を含めたファンの心をがっちりつかんで、日本でも固定ファンが多いようである。


 これは全く蛇足であるが、つい先日のケミカル・ブラザーズのアルバムがけちょんけちょんだったのに対し、Degoのアルバムが好印象なのに違和感を覚える人がいるかもしれない。どちらも活動開始は1990年代、Degoはドラムンベースでケミカルはビッグ・ビートというどちらもブレイクビーツ系、日本語版がリリースされるあたりも共通している。Degoのアルバム・プロモーションが地味なのに対し、ケミカル・ブラザーズはかなり派手派手しいあたりが唯一の違いだが、もっと違うのはDegoがジャンルに徹底的にこだわっている点だろう。対するケミカルはポップに振れつつ作品の傾向がふらふらと安定しない。マスやセールスを気にして方向性が安定しないケミカルに対し、Degoの作風は本当にブレがない。亭主がDegoの作品を支持し続けるのはこのブレのなさ、安定感にある。いやもちろんケミカルの作品には試行錯誤があり、Degoの作品には冒険がないのだという反論があるならば何も言えないのだが・・・(2019.09.30)

10/18 【聴】 No Geography / The Chemical Brothers, Virgin|Universal(UICW-10018)

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 ビッグ・ビートの雄として1990年代から活動。アルバム"Dig Your Own Hole"の大ヒットにより一躍スターダムにのし上がったケミカルブラザーズが、4年ぶりにリリースしたフルアルバムが本作。日本盤はオリジナル10曲にボーナストラック3曲を加えた全13曲。1999年代の機材を使用、かつてのロッキン・ビーツ・スピリッツ復刻を目指した意欲作とのこと。


 もともとのケミカルブラザーズはテクノのユニット、いわゆるヴォーカルなしのトラックが主流であったことをいまさらながら思い出す。ブレイクビーツからデジロック、ビッグ・ビートへと大きく舵を切った1995年以降ヴォーカル曲が増え、全体的にキャッチーな曲が増えていったと記憶している。亭主は音楽市場で急激に有名化していったアーティストたち、たとえばケミカルブラザーズ、ダフト・パンク、ラスマス・フェイバーらの作品への興味を急速に失っていて、今回も新作アルバムを買うつもりはなかったのだけれど、20年前の機材を使うという彼らの試みに興味を抱き、再びアルバム購入を決意した次第である。


期待して聴いた彼らの新作は、なるほど懐かしのシンセ音源を使ってみたり、ブレイクビーツやビッグ・ビート的なサウンドを指向してみたりとBack to the Basicな取り組みがなされている。ただ、申し訳ないが新鮮さや驚きは感じられなかった。ロックの初期衝動たる過激さも、また実験的要素も見られなかった。ケミカルブラザーズという看板は盤石のように感じられた一方、その作品からなんらかのメッセージを受け取ったかといえばNOであった。


 成功したアーティストたちは、かつての成功体験をその後の音楽活動に取り込もうとするきらいがある。売れる曲、世間に受け入れられた曲の成功体験を無意識のうちにアルバムに反映させようという力学がはたらく。しかし、成功体験が必ずしも大事というわけでもない。時間、場所、当時の風潮、あるいは社会問題。かつての成功体験をそのまま踏襲できるような状況は2度とこない。ポップ・ミュージックの末席にあって、一躍有名アーティストとなったケミカルにも同じことがいえる。原点回帰といいつつもどこかにセールを気にしたトラックたちを聴きながら、自らの成功体験に縛られてしまった有名アーティストのもどかしさをヒシと感じている(2019.09.30)


2019年10月 3日 (木)

10/03 【聴】 Hosono Haruomi compiled by Oyamada Keigo / V.A., Victor(VICL-65246-7)

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 近年はCorneliusとしての活動よりも、META FIVE、YMOのサポートメンバーとしての活躍がめざましい小山田圭吾が、細野さんの楽曲からお好みをセレクトしたマイ・ベストアルバム。2枚組、全34曲を収録する。なお同シリーズとしてすでに星野源のコンピレーションがリリースされている。

 小沢健二とのユニット、フリッパーズ・ギター解散後、ソロプロジェクトCorneliusを立ち上げた小山田圭吾。当時メンバー一人のユニット名というのは珍しかったようで「なぜ一人なのに別の名前?」という質問をあちこちのインタビュー記事で読んだ記憶がある。読んだはずなのに明確な理由を覚えていないのは、その後一人ユニットという形態が当たり前となって、Corneliusの唯一性が薄れたからだ。ポップス、エレクトロニカ、その時々で方向性を変えつつも、細く長く活動してきた結果、Corneliusという存在はまるで空気のように世界にあまねく存在している。CM曲、テレビ番組の挿入曲、彼の楽曲はどこでも使われている。

 小山田さんが細野さんのベストアルバムをコンパイルしたことを、かつての亭主ならば「なぜ?」と思っただろうが、近年の彼の活躍を振り返れば、彼もまたYMO世代の一人であると納得できる。実際、彼の選曲は、はっぴいえんど時代からYMO、その後のソロ作品群(実はこの時代が一番長い)と幅広い。うれしいのは亭主が大好きな作品"S-F-X"や"Omni Sight Seeing"といったソロ作品や、Sketch Show(高橋幸宏とのユニット)、Swing Slow(コシミハルとのユニット)といったプロジェクトからも楽曲をセレクトしていることだ。星野さんのコンピレーションを聴いた際にあまりにセレクト元が偏っていることに気がついて「これはレコード会社の権利関係かなにかか?」と勘ぐったが、小山田さんのセレクトをみるとそのような制約はないようだ。ポップス、テクノポップ、アンビエント、そしてエレクトロニカ。様々なジャンルを横断しつつ、しっかりと小山田さんのセレクトになっている。そして同時にこのセレクトは亭主の好むところとよく似ている。

 本コンピレーションで網羅されていないのは、最近のオールド・アメリカンな作品群(たとえばHosonovaやHeavenly Music、遡ってルイジアナ珍道中など)、それからこれはコンピレーションに入れにくいが"Love, Peace and Trance"や"N.D.E."などのアルバムたち。亭主ならばこのあたりも選曲に入れるだろうか、などといろいろ妄想を膨らませている。

 ところでこのシリーズ、第1弾が星野源、第2弾が小山田圭吾とくると、第3弾以降が気になる(ただし第3弾のリリースはアナウンスされていない)。亭主は第3弾に砂原良徳を期待しているが、はたして実現するだろうか。(2019.09.21)

2019年10月 1日 (火)

10/01 【聴】 In a Safe Place / The Album Leaf, Sub Pop(SP-640)

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 ポストロック・バンドTristezaのメンバーで、The Crimson Curse, The Locust他での活動でも知られるJimmy Lavalleのソロプロジェクト、The Album Leafの2004年アルバム。前作"One Day I'll be on Time"でその才能を見出されたThe Album Leaf、本作ではシガー・ロスのメンバーがゲストで参加するなど、少しづつではあるが世界観が広がった感じがする。


 シューゲイザーというジャンルを端的に説明するならば、パーソナルかつオーガニックな風合いをもつオルタナティブ・ロック、といったあたりが適切だろうか。いわゆる「暗い」という印象は前作も、また本作からも感じられず、どちらかといえばアンビエントをロックというフォーマットに転写したようにも聞こえる。音楽的に尖った部分がないだけにインパクトはほどほど、素直に気持ちの良い、耳心地の良いサウンドがBGMに持って来いで、このところ自宅ではThe Album Leafのアルバムをヘビーローテーションしている状態である。何度聞いてもメロディが耳につかないのは「飽きが来ていない」という意味では喜ばしいことなのだろうが、逆に耳心地が良すぎて不安になる。心にすんなり入り込む一方で、なんら感情の沸き起こるものがないというのは本当に良いことなのだろうか。さらに具体的に言うならば、あまりのスムーズさに創作意欲というかインスピレーションが全く湧いてこないのだ。


 確かに亭主はこのところ心底疲れている。何かを考えること、思いを巡らすことが億劫になった結果として、The Album Leafのような静謐な音楽を聴くことが癒しとなっている。だが癒されている一方でどこかに「クリエータの端くれ」としての焦りもあって、聴くほどに「このままでよいのか」という気分にもなる。やみくもに焦っても、何も思いつかないままキーボードの上に手を置いても何も出てこないことはわかっている。だが何かを打ち込まなければならない、何かをひねり出さなくてはならないという焦りが亭主の心を疲弊させている。本作にもう少しアクの強い部分があったら事態は少し変わったかもしれないが、いまはただ「シューゲイザー」というパーソナルな音楽に浸り、焦り半分で雌伏の時を送っている(2019.09.07)

2019年9月28日 (土)

09/28 【聴】Brave / Arashi, J-Storm(JACA-5808, 5809)

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 日本テレビ系ラグビー2019ワールドカップイメージソング。嵐としては1年ぶり、57枚目のシングルが本作となる。ラグビー・ニュージーランド代表が試合前に披露する「ハカ」を思わせる強いリズム、櫻井くんによる久々の攻撃的なラップが特徴的な作品。様々なプロモーション、ラグビー放送中のBGMなどとしてよくプレイされているので聴いた人は多いかもしれないが、ラグビーのイメージソングというとB'sの「兵、走る」がまず思い出されるあたりが残念。あちらはリポビタンDのCM挿入曲である。


 なおシングルはCDとBlu-rayの2枚組。CDは1曲のみ収録、Blu-rayはBraveメイキング映像54分を収録している。こうなるともうCDが主なのか、メイキングが主なのかわからない(2019.09.21)

2019年9月26日 (木)

09/26 【聴】 Perfume The Best "P Cubed" / Perfume, Universal(UPCP-9022)

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 Perfume久々となるベスト・アルバム。これまでの彼女らのアルバムから選りすぐったトラックをCD3枚、ブルーレイ1枚に凝縮した、まさに決定版。今回は厚さ4cmにもなるブックレットが付いた限定盤を購入した。Disc 01には16曲、Disc 02には18曲、Disc 03には18曲、そしてブルーレイには6トラックの映像を収録。ブックレットにはPerfumeの3人のポートレイト、ロングインタビュー、各種ビジュアルを収録。さらに全曲の歌詞が収録した冊子もついてくる。すべてを重ね、アクリルのケースに入れると一辺が15cmの立方体となる。大掛かりな仕掛けだが、冷静に眺めると巨大である。どこに置くかがなかなか悩ましいデザインである。


 ベスト盤ということで、これまで丹念に彼女らの作品を追ってきた亭主として格別いうべきことはない。Perfumeの3人の軌跡、地方のアイドルからスタートし、紅白歌合戦の常連にまで成長した彼女らの輝かしい姿は、亭主がなにかと語るものでもない。プロデューサであり彼女らの楽曲を一手に手掛けてきた中田ヤスタカのトラック・メイキング、計算されつくしたビジュアルとライブ演出、そして中田ヤスタカの高い要求に見事に応えてきたのっち、かしゆか、あーちゃんの3人の努力。すべての仕掛けががっしりと組みあがって完成したPerfumeのすべてが一辺15cmの立方体に凝縮されている。


このベストアルバムから(というかこのデカブツから)Perfumeに入門する、という人はさすがにいないだろう。このアルバムを買う人はデビュー当時(あるいは早い時期から)Perfumeを知っているファンであろうから、3枚組52曲のとにかく存分に楽しむのが良いと思う。巨大なスピーカで浴びるように聴いてもよいし、携帯型プレーヤにダウンロードして、ビル群の間を駆け抜けるかのように聴いても良い。どの曲もファンにはおなじみの、まさにベストアルバムである。


 ブルーレイは最新アルバムFuture Popから、docomoとのコラボCG、ワールドツアーのダイジェスト映像、Eテレ放送の「Eうたココロの大冒険」、そしてこれまでアルバムのボーナストラックとして収録されていた「ただただラジオが好きだからレイディオ!」の第4弾など1時間半を収録。前半はCG多め、ハイテク多めのいつものPerfume。後半Eテレ番組は「コンピューターおばあちゃん」「はみがきじょうずかな」など子供番組のおねえさん。「レイディオ!」はブルーレイなのになんと音声のみ。広島弁まるだしの3人による雑談&楽曲紹介がたっぷり1時間弱楽しめる。(2019.09.18)


2019年9月19日 (木)

09/19 【聴】After Service / YMO, SONY GT(MCHL-10120-10121)

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 YMOのオフィシャル9枚目となるアルバム。結成40周年を記念したSACDとのハイブリッドディスクとしてBob Ludwigのデジタル・リマスタリングが施されている。ファイナルとなった散開ライブの様子を2枚組CDに収録している。途中ドラマーがユキヒロさんからデヴィッド・パーマー(ABC)に交代、以降ユキヒロさんはヴォーカルに専念する様子は映画「プロパガンダ(監督佐藤信)」にも収録されていて、当時ファンの間でも「新メンバー登場か!?」と話題になった。1983年リリース。ライブで演奏される楽曲はYMO歴代の人気曲19曲だが、ライブ用にアレンジがなされているせいかオリジナルを好む人にとってはちょっとベタな演奏、フュージョン的なアレンジに聞こえるかもしれない。


 亭主がこのアルバムを聴いたのは、アルバム発売からかなり時間が下ってのことだ。当時亭主は学生で、月の仕送りのなかからCDを買うのを唯一の楽しみにしていた。アルバムを買うタイミングが遅れた理由はずばり、亭主が清貧生活を送っていたから。毎月の仕送りをやりくりしてなんとか生活していた亭主にとって、他のアルバムと収録曲にダブりの多いライブアルバムを購入する意義は乏しかった。サーヴィス、そしてアフター・サーヴィス、さらにコンプリート・サーヴィスと、似たようなアルバムが立て続けにリリースされていたのも購入を見送らせる理由の一つだった。常に金欠だった亭主にはこれらリリースを「アルファ商法」などと揶揄する気概は毛頭なく、まあいつかは買うんだろうなぁ、どこのレコ屋にも売っているくらい潤沢に在庫があるんだからなぁ、などと緊張感のないことを考えていた。ただ先送りにするのにも限度というものがあったようだ。今、巷をぐるり眺めまわしてみるにCD店そのものがなくなっている。在庫以前に店そのものが消えてしまうなど、本アルバムリリース当時の1980年代の日本のなかでいったい誰が予想できただろう。


 嘆き節はさておいて、個人的にはこのアルバム、あるいは散開ライブの演奏はあまり好みではない。ライブ演奏に特化したからであろうか、シンセの音色がオリジナルとかなりかけ離れていて、アルバム/ライブ全般に統一感を持たせている一方、オリジナルのような音色へのこだわりや楽曲の作りこみがないがしろになっている(ように聴こえる)からだ。音色やアレンジへの違和感は2019年となった現在も変わらない。(2019.08.28)

2019年9月18日 (水)

09/18 【聴】Service / YMO, SONY GT(MCHL-10119)

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 YMOのオフィシャル8枚目となるアルバム。「浮気なぼくら」で「テクノポップ=YMO」という図式を確立したYMOによる最後のフルアルバムが本作となる。オリジナルは1983年リリース、結成40周年を記念したSACDとのハイブリッドディスクとしてBob Ludwigのデジタル・リマスタリングが施されている。全14トラック。

 三宅裕司率いる劇団・ギャグ集団"Super Eccentric Theater(S.E.T.)"とのコラボレーションによって製作されたアルバム。S.E.T.は翌年にアルバム"The Art of Nipponomics"(高橋幸宏プロデュース)をリリースしている。本作での共演もユキヒロさんの仲介によるものだったという。YMOの楽曲と、S.E.T.+YMOによるコントがかわるがわるに現れる構成は、スネークマンショーとのコラボ作"X-Multiplies"に通じる。ただし本アルバムは一部マニアに大変受けが悪く、テープにダビング/PCに取り込む際にはあえてS.E.T.のトラックを録音しない(または削除する)といった措置を取った人も少なからずいたようだ(ようだ、と書くが実際に削除した人を数人知っているので伝聞というよりも原体験である)。

 S.E.T.のコントとスネークマンショーのコントを比べると、スネークマンショーのそれは基本的に反体制、文字通り「セックスドラッグロックンロール」な内容であった。「反体制=新しい」という図式が若者の心をわしづかみにすると同時に、過激な社会風刺が知識人たちを刺激して「YMO現象」の発端となった。

 これに対しS.E.T.のコントは(三宅裕司のギャグ的なセンスから言えば)日本伝統の落語や狂言の形式に近い。社会や体制を批判するブラックな笑いではなく、ナンセンス・ギャグやドタバタ劇などこれまでの日本で好まれてきた伝統的なお笑いの要素が援用された。S.E.T.のコントを聴いたリスナーの多くはその内容に「絶対的な安定感」と「物足りなさ」を感じ取ったであろう。一方で、夜のヒットスタジオほかテレビへの出演機会が増え、お茶の間の人気者となっていったYMOの「絶対安定」感にS.E.T.のそれを重ねて、YMOの活動の終焉を感じ取っていたリスナーもまた多かったに違いない(2019.08.28)

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