08/10 【読】「日本SF論争史(巽孝之・編、勁草書房)」
SF批評家、評論家として知られる巽孝之氏が、日本SFにまつわる様々な批評・論考を時代とともにまとめた書。1910年代に英米で勃興したSFというジャンルが、1950年代に日本へと流入し、以降日本独自の発展を遂げていく中で興った様々な議論、その時代を代表する作家たち・作品群を題材に、SFとは何か、SFはどうあるべきかを熱く議論した論考集が本書となる。2000年5月発行。巻末には日本SF年表が付録としてまとめてある。
本書は大きく5部に分けることができる。日本SF黎明期の代表的作家である安部公房・小松左京らが日本国内におけるSFの流行を語った第1部、福島正実、石川喬史、山野浩一、荒巻義雄、柴野拓美ら日本SFの屋台骨を支えた編集者・批評家・作家らがラジカルな論評を繰り広げる第2部、田中隆一、川又千秋、筒井康隆らが作り出した日本SFの新しい波(ニューウェーヴ)にSFの未来を幻視する第3部、ブルース・スターリングやオーソン・スコット・カードらによるSFの新しい潮流、サイバーパンクに笠井潔、永瀬唯、伊藤典夫らが論評を加える第4部、そして野阿梓、小谷真理、大原まり子らによるジェンダー議論の第5部。オビには「これが論争(ケンカ)の花道だ!」とあって、いかにも物騒な内容ととられがちだが、実際には各々の時代、英米や国内のSFの潮流に即したタイムリーな議論がなされていて、ネットウォッチャーが喜びそうな炎上案件は皆無といってよいだろう。
なお、5部構成はそのまま日本SFの歴史を大きく5つに切った形となっており、第1部・第2部あたりはハインラインの「宇宙の戦士」やクラークの「2001年宇宙の旅」、あるいはジュール・ベルヌの冒険小説らが批判の対象となるほか、SFファンジンや日本SF作家に対する苦言や批判が散見される。時代が下りるにつれ批判・批評の対象はあいまいかつ抽象的となり、論考は「SFとは何か・どこから来たのか」から「SFはどこに行くのか」へと移り変わる。近年のやおい文化、ジェンダーについての議論は、SFの世界よりもむしろ現代社会が抱える課題ととらえるべきだろう。SFの主たるテーマである未知なる世界(その主たる舞台は宇宙だ)とはるか未来の飽くなき探求は、未来が現在となった今や人間の心の深奥へと向かい、逼塞する人間社会の行く先を問うている。
ちなみに、時代を下るほどに文章が現代語となり読みやすくなる。内容もアジ的なものからエッセイ調となり肩ひじ張らずに読める。戦後間もない時代と、現代とでこれほどまでに日本語が違うのかと、改めて驚かされることだろう(2020.08.10)
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