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2019年11月11日 (月)

11/11 【読】「三体(劉慈欣、早川書房)」

「三体(劉慈欣、早川書房)」


 中国、山西省生まれ。2006年に中国のSF雑誌「科幻世界」に「三体」を発表し爆発的な人気を得る。2014年に英訳版を刊行、2015年にアジア人初となるヒューゴー賞を受賞するなど世界的にも評価の高い劉慈欣氏の話題作がついに日本語化された。なお、中国では続編である「黒暗森林」「死神永生」が3部作として刊行されていて、オバマ元大統領も第1部を愛読、第2部以降の英訳化を熱望しているという。日本では2019年7月の初版が1週間で第9刷となるなどSF作品としては異例の大ヒットとなっている。


 主人公は、中国のエリート科学者・葉文潔。父親を文化大革命で惨殺され、自身もまた当局から監視される日々を送っていた彼女は、軍関係者と思しき人物によって謎に包まれた軍事基地への就職を誘われる。自らの不遇に絶望しつも有能な物理学者であった彼女は、軍事基地で巨大なパラボラアンテナを稼働するチームに参加、みる間に頭角を現す。だが、巨大なパラボラアンテナの用途は依然として不明、レーザー兵器とも、電磁波兵器などとも呼ばれつつアンテナを向けるその先にあるものとは。


 ーーーと、まずは本書の冒頭部分をざっくり書き下してみたが、本書の面白さをなかなか表現し切れていないのが正直つらい。文化大革命の時代から現代へ、世界の有り様も、技術も変遷していくなか、「中国」という巨大国家の内側で、様々な人々が「三体」と呼ばれるプロジェクトに翻弄される。天体力学における「三体問題」に由来する「三体」の全貌が徐々に明らかとなる様、その面白さをどうやって説明したらよいのだろう。


 「三体」の面白さを実際に経験してもらう為には、やはり本書を読んでもらうしかないのだけれど、内容に触れない範囲で本書の面白さをいくつか述べてみる。


 まず一つ目。


 本書舞台である中国の独自の政治体制、価値観、あるいは政府という大きな枠組みの中で発展していく科学技術の面白さ。中国の人間でなければなかなか想像できない不自由さ、閉塞感のなか、独自の発展を遂げていく科学技術に、西欧の科学との「パラレル・ワールド」を見て取れる。当局の目をかいくぐり、なんとか研究を続けようとする研究者たち。中国の国力増加と結びつけられ、政府から支給される莫大な開発予算。そして西洋人には思いもつかない研究開発のアプローチ。そのどれもが読み手に新鮮な感覚(とパラレルワールド的な違和感)を与えてくれる。


 二つ目。


 現代の科学技術とSF的なガジェットとを緻密に接合する疑似的なリアリティの面白さ。従来SF作品にみられる技術の大幅な飛躍を用いることなく、既存の科学技術を少しづつ外挿することで壮大な物語へと仕上げている。と、同時に、ストーリを彩る思想・政治・宗教・環境などに関するリアルなエピソードが本書をしっかりと現実世界へとつなぎ止めている。あまりネタ晴らしをしてはいけないが、物語は終わりに近づくにつれどんどんと拡大していく。と同時に、技術の飛躍の度合いもまた指数関数的に広がっていく。この飛躍の度合いがまた痛快である。どこかの書評で、本書が「トンデモ小説」だと書いているのを見たが、「トンデモ」などとはとんでもない。本書はリアルな中国世界を舞台としたハードSFだ。ただ、外挿による飛躍がとんでもない範囲にまで拡大して、我々の想像を遙かに越えていくにすぎない。我々読者はその拡大する世界を前に、ただただなす統べなく立ち尽くすしかない。


 なお第2部「黒暗森林」は日本語訳が2020年に発売予定とのこと。さらにボリュームを増した続巻にも期待したい。(2019.11.11)

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