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2018年11月 1日 (木)

11/01 【聴】 Saravah Saravah! / 高橋幸宏, Columbia(COCB-54275)

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 高橋幸宏のソロ活動40周年を記念して製作されたアルバム。ユキヒロさんの最初のソロ・アルバムである"Saravah!"のオケはオリジナルのままに、ヴォーカルのみを再録音したという意欲作。リマスタリングはYMOのベスト"Neue Tanz"と同じく砂原良徳。アート・デザインはテイ・トウワ。


 これはいつか書いただろうか、亭主が最初に聴いたユキヒロさんのアルバムが"Saravah!"であった。高校生の頃、亭主の通う高校があった街の貸レコード屋"友 & 愛"で、学校帰りに借りたのがこのアルバムだった。家に帰り、父親のレコード・プレーヤ(当時は家具調の大きなステレオが家にあった)で再生しようとしたが、肝心の音が出てこない。しかたなく小学校からの友人だった小林君の家に行き、小林君の持っていたステレオのプレーヤから、カセットにダビングした。手間賃に小林君もアルバムをダビングし、翌日貸レコード屋に返したのだった。返す日付がずれると延滞料金をとられる、レコードに傷をつけるとこれまた罰金を払うことになる。いろいろと気を遣うことが多く、よほど精神的に疲れたのだろう。以降貸レコード屋に行くことはなくなり、せっせとアルバムを買い集めることになった。もちろんレコードではなく、カセットテープである。レンタルCD、ダウンロード、Youtube。メディアコピーはいつの時代も世間のメインストリームだったが、亭主がしつこくアルバムを購入するのは、実はこのあたりが原体験だったようだ。


 その後しばらくはダビングのテープ(当時FeCrのテープを使っていた)を聴いていたが、大学生になってCDラジカセを手に入れてからはCD盤を購入した。テープもいいかげんよく聞いたが、CDもまたこれに輪をかけて聴いた。ついでにこの"Saravah Saravah!"もしつこく聴いている。亭主にとって"Saravah"は、青春時代を共に過ごした大事な音楽の一つなのだ。


 さて、そんな"Saravah"を亭主がどのようにして知ったのかといえば、これにもまたエピソードがある。亭主は中学生の頃、父親に頼み込んでNECのパーソナルコンピュータPC-6001を買ってもらっていた。父親の「これからはコンピュータの時代だ、コンピュータを使える人間こそがこれからの時代を生き抜いていける」という言葉が、貧乏だった我が家にパソコンを導入させたのだ。当時はパソコンを持っている人間はごくごく限られていて、亭主はとにかくうれしかった。しかしあとで振り返ってみると、父親の言葉の重さ、時代を先取りした価値観にただただ驚かされる。地元の農協で、ガソリンスタンドやガスの配送や、家電を売っていた父が時代をどこまで見通していたか。しかし確かにコンピュータの時代はやってきた。


 はなしがそれた。


 PC-6001を買ってしばらくはゲームで遊んでいた亭主だったが、ほどなくBASICのプログラミングに夢中になった。自分でゲームをプログラムできればいくらでも遊べると思ったのだ。BASICのプログラムを学ぶにあたって、いくつか教本やら、参考書を買ったのだが、その中の一冊に女性プログラマの「高橋はるみ」さんの著書があった。高橋はるみというと最近は北海道知事が有名だが、そちらではない。高校生でゲームプログラミングを学び、東京のソフトハウスに出入りしながらあちこちのパソコンでBASICのゲームを製作、パソコン雑誌にプログラムを投稿しては人気を博した、当時で言えば「スタープログラマ」かつ「アイドル」だった。


 この高橋さんが書いたゲームプログラミングの本のコラムに「高橋幸宏のSaravah」がお気に入りで、これを聴きながら夜明けを迎える日々が続いているという記載があったのだ。当時中学生だった亭主、YMOも高橋幸宏も知っていたが、Saravahというアルバムは聴いたことがなかった。アルバムを買おうにも、家電の脇にミュージックテープやレコードがこじんまりと並んでいるような田舎の電気店に、高橋幸宏があるとは思えなかった。注文ができるとしてもアルバムの型番がわからなかったし、中学生風情がアルバムを注文することなど、恐れおおくてできなかった。まだまだ家庭にコンピュータが普及していない時代のお話である。もちろんインターネットも、Amazonもない時代、長野県の小さな谷の小さな商店街で、中学生にできることなどまったくなかったのだ。


 そんなわけで亭主にとって"Saravah!"は、聴きたくても聴くことのできない幻のアルバムだった。 スタープログラマの女性が、徹夜までして聴くアルバムとはいったいどれほどのものなのか。はたしてその思いは2年後、亭主が高校生になって叶うこととなる。残念ながら亭主は一人部屋を与えられず、弟たちと共同の勉強部屋に居たため音楽を聴いて朝を迎えることができなかった。ただこの思いはさらに3年後、亭主が浪人生となり松本の予備校の寮に入ることになって叶うことになる。当時はなにをするにも時間がかかった。だが、時間さえあれば思いはすべて叶った。コンピュータ時代となり、会社員となったいまでは、思いはすべてインターネットと、金が解決してくれる。


 亭主がダビングしたカセットで、CDでひたすら繰り返し聞いたオリジナルのアルバムの音は、亭主のアタマの中にすべてが入っている。ヴォーカルを再録音したという本作だが、歳を重ねて円熟味を増したユキヒロさんの声とは別に、オケもまたリマスタリングによって様々な部分が変更されていて興味深い。イントロが少し長めに収録されているものもあれば、ドラムのソロがちょっと派手目にミックスされているものもある。全体的にはゴージャスなアレンジ、オリジナルのヨーロピアン・ポップスからワールドワイドなポップスへと軸足を移し、より裾野の広い音楽へと進化している。オリジナルの作曲・編曲には坂本龍一が全面的に関わっているが、格調高いヨーロッパのサウンド、坂本さんのクラシックに対する深い造詣とこだわりがリマスタリングによってポップに昇華されていることを、果たして喜ぶべきか、それとも残念とするべきか。聴くたびにオリジナルとの違いに「おや」「おや」と思う亭主、しかしそれは不快ではなく、むしろ亭主の記憶を刺激するここちよい違和感である。若いころ聴いたアルバムと、ほんの少し異なるアルバム。しかしその根底には中学生の頃、高校生の頃、浪人生の頃、そして大学生の頃に聴いたアルバムの音があって、新しいアルバムの通奏低音となって常に亭主の中で響いている(2018.10.23)

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