« 06/19 【聴】 鉄、色、雪のパール兄弟+(秘) / パール兄弟, Hagakure|Universal(UPCY-9808) | トップページ | 06/21 日々雑感 »

2018年6月20日 (水)

06/20 【読】 「定本・二笑亭綺譚(式場隆三郎、藤森照信、赤瀬川原平、岸武臣、式場隆成、筑摩書房)」

「定本・二笑亭綺譚(式場隆三郎、藤森照信、赤瀬川原平、岸武臣、式場隆成、筑摩書房)」


 昭和初年、関東大震災からの復興進む東京は深川に、異形の建物が出現した。近隣から牢屋などと訝しがられる、その建物の名は二笑亭。この建物、深川一帯を地所に持つ資産家、渡辺金蔵なる人物が大金をかけて建設したものだという。牢屋と呼ばれるほどの圧倒的な重量感、あらゆる部分が非対称の意匠、そして屋敷内に施された意味不明・用途不明の仕掛けたち。だが、ある事件を発端として建物の建設は中止、渡辺氏自身も精神病院へと送られてしまう。


 本書は主人を失った二笑亭が取り壊される少し前、医師で文筆家であった式場隆三郎氏が建築家の谷口吉郎氏とともに現地調査した書「二笑亭綺譚」をベースとして、後年出版されたアンソロジー「五十年目の再訪記」ほかを加えたもの。なお再訪記は、藤森照信氏、赤瀬川原平氏、岸武臣氏、式場氏のご子息である隆成氏らの共著となっている。


 昭和初期の怪建築、二笑亭に関する文献としてはおそらく本書が最初で最期の決定版。お化け屋敷的な興味の集まる怪建築の謎を理性的に解き明かした書として、これ以上の解説は不要というほどの完成度を誇る。施主である渡辺氏による異形のデザインの意図、海外やその後の国内におけるデザインのムーブメント、あるいは渡辺氏が亭建築に取り掛かる直前に敢行していた世界一周旅行の旅行記など、多方面からの考察、資料が集まっているほか、赤瀬川氏によるオマージュ小説も収録されている。二笑亭といえば、最近藤田和日郎氏が「双亡亭壊すべし」なるオカルティックな漫画作品を週刊連載しているが、本作に登場する怪建築「双亡亭」の下敷きが二笑亭である。漫画ではあらゆる邪悪の根源、また放つ破壊不能の建物として世界規模の脅威となっているが、元ネタである二笑亭は、そんなオカルトとは無縁の、むしろ物悲しいエピソードで語られるべき儚い存在だ。本文中「気味が悪い」などと形容される異形は施主である渡辺氏の狂気を感じてのもの、しかしその渡辺氏もまた孤独の中で生きる一人の人間であった。


 実は亭主、本書を以前に購入していて、今回が二度目の読了となる。一度目は会社に入ってすぐ、赤瀬川原平氏の「超芸術トマソン」を読むながれで、こちらにも興味が動いていた。だが当時の亭主は、公私ともにいろいろと病んでいる時期でもあって、本書に登場する渡辺金蔵氏の狂気が自らにも伝染するのではないかと心底怖れを抱いたのだ。確かに本書は面白い。ミステリやオカルトの要素を含みつつ、謎解きゲームを進めるような気分で読むことができる。しかし先にも書いたように、本書の本質は未完成のうちに精神病院へと入れられた渡辺氏の悲運にある。当時の亭主にとって狂気や悲しみは、自らの精神を侵す猛毒だった。いまこの猛毒に対抗しうるだけの抗体が自らの精神に備わっているかどうかはわからないが、それでもなんとか読み終えることができた。


 なお、本書は古書店から中古で入手したものであるが、藤森照信氏によるサイン本であった。サインには〇〇様~と以前の所有者の名前も記されていて、持ち主の手を離れた経緯に思いを馳せると、やはりここにもドラマがあるように感じられた。(2018.06.20)

« 06/19 【聴】 鉄、色、雪のパール兄弟+(秘) / パール兄弟, Hagakure|Universal(UPCY-9808) | トップページ | 06/21 日々雑感 »

」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/602237/66852135

この記事へのトラックバック一覧です: 06/20 【読】 「定本・二笑亭綺譚(式場隆三郎、藤森照信、赤瀬川原平、岸武臣、式場隆成、筑摩書房)」:

« 06/19 【聴】 鉄、色、雪のパール兄弟+(秘) / パール兄弟, Hagakure|Universal(UPCY-9808) | トップページ | 06/21 日々雑感 »

2018年7月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
フォト
無料ブログはココログ