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2018年6月 2日 (土)

06/02 【読】 「アースダイバー東京の聖地(中沢新一、講談社)」

「アースダイバー東京の聖地(中沢新一、講談社)」


 宗教学者・人類学者・思想家として活躍する中沢新一氏の最近のプロジェクト「アースダイバー」シリーズの最新刊。古地図・地形図から読み取れる古代日本の原風景を現代の都市へと重ねる本プロジェクトは、東京、大阪ときてついに現代の社会問題へと切り込む。豊洲への移転か、それとも存続かで2018年現在も物議を呼んでいる「築地市場移転問題」、ザハ・ハディド氏のデザイン案が巨額の建設費を必要とするという理由で再選考となった「2020年東京五輪新国立競技場建設問題」の2件が古代日本の思想という視点から語られる。


 そもそも築地市場は、関東大震災で壊滅的な被害を被った日本橋魚河岸の代替として、国によって半ば強制的に設定されたものだという。都心の急速な都市化・高層化によって外へと追いやられた築地市場であったが、その成立には古代から連綿と続く、海民たちによる商いの仕組みが反映されていて、新しいながらもしっかりと「古代日本の原風景」が伝えられている。日本橋魚河岸は、徳川家康が江戸に居城を構えた際に大阪で商いを営んでいた魚商人たちによって形成されたものだそうである。関東・東海・東北の沿岸から新鮮な魚を買い付け、毎日江戸城に魚を届ける。江戸幕府とともに高度に発展・システム化されてきた魚河岸の歴史が細かくつづられている。


 一方、国立競技場建設が予定されている明治神宮は、明治天皇崩御の際に、当時東京に住む人々の「明治天皇の遺徳を伝える記念物を東京に」という思いから作られたもの。都市部に作られた人工の森林、しかしその森林の設計にあたっては古代日本における古墳の思想が反映されている。人間の手を全く入れない、原生林としてデザインされた神宮内苑、社会との接続を図り、積極的に社会へと開かれた神宮外苑という二つの考え方には、「内苑(=円墳)+外苑(方墳)=明治神宮(前方後円墳)」という図式が成立する。2020年東京五輪に向けデザインされる新国立競技場は、果たして本当に日本らしさ、日本の原風景を次世代へと伝えることができているかを読者に問いかける。


 本書のオビには「ほんものの保守思想の根源」とあって、本書を手に取る人は一瞬ギョっとするのだが、読んでみるとなるほど、保守思想とはこういうものなのだと納得するだろう。対する昨今の保守主義者たちの考え方が、いかに利己的で、近視眼的であるかもよくわかる。古代日本の思想とは、徹底的に「外」と「内」を切り分け、自然と人間を対立させ、神を上に、人を下に置く西洋思想とは全く反対のものである。自然の内側に人間を、同時に人間の内側に自然を内包させる、独創的な世界観こそが古代日本の思想の眼目である(この部分は中沢氏のライフワークである対称性人類学に詳しい)。


 なお本書は、課題山積である上記二つの社会問題に対しかならずしも批判・批評する論調をとっていない。徹底的な批判・否定の論調で突き通すこともできたであろうが、あえてトーンを抑え、読者に気付きを与えることで、上記社会問題を建設的にとらえようとする。読後の後味が非常に良いこともまた日本的で好ましい。(2018.06.02)

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