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2017年2月 9日 (木)

02/09 【読】 「羊と鋼の森(宮下奈都、文藝春秋)」

「羊と鋼の森(宮下奈都、文藝春秋)」

 福井県出身、2004年にデビュー作「静かな雨」が文學界新人賞佳作に入選。長編「スコーレNo.4」、本屋大賞ノミネート作「誰かが足りない」などの作品を発表する宮下奈都の長編。第154回直木賞候補作として「王様のブランチ」などで紹介され話題を呼んだ。


 北海道の山間で生まれ育った青年、外村。高校生の頃に偶然目にした調律の仕事に心を打たれ専門学校を卒業した彼は、故郷近くの街の楽器店で調律の仕事に就いた。格別音楽の才能があるわけではないものの、日々の努力によって技術を高め、己の目標を見いだそうと苦闘する彼の姿を生き生きと描き出す。妻文庫。


 まずなにをおいても読後感が良い。主人公である外村の現代的かつ純粋な性格、こつこつと努力を続ける彼の成長物語は、常に前向きで希望に満ちている。外村をとりまく人々もまた、個性的かつ人間味にあふれていて、それぞれが自らの人生のなかで輝いている。さらに彼らを取り巻く北海道の豊かさ、厳しさは、彼らにとっての原風景であり、音楽体験の基礎となっている。物語の構造や舞台設定がシンプルであるぶん、登場人物それぞれの生き方がヴィヴィッドに際立つ。


 もう一つ、特筆すべきは音楽の描写の豊かさだ。本作品ではピアノの音あるいはピアノの弾き手の音をレトリックを駆使して表現しているが、そのいずれもが文字や文章の間から音を感じさせる。温かい音、くっきりした音といったオーソドックスな表現はもちろん、子犬と戯れているかのような演奏、森の中を想像させる音などの表現、さらには北海道の厳しい自然など多彩な表現を使用しており、しかもその一つ一つが不思議と心にしっくりなじむ。


 それにしても本作で描き出される世界は、どこまでも優しい。人々は皆前向きで、物語は希望に満ちている。まるで上質のオーケストラを聞いたかのような読後感に、読んだ後しばらく余韻に浸ってしまった亭主であった。

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