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2012年6月26日 (火)

06/26 【読】「ハーモニー(伊藤計劃、早川文庫JA)」

「ハーモニー(伊藤計劃、早川文庫JA)」

2007年に長編SF「虐殺器官」でデビュー。「ベストSF2007」「ゼロ年代ベストSF」一位を受賞しベストセラー作家となるも、2009年に34歳で夭折した著者が、病床で執筆したという最終長編が本作となる。第30回日本SF大賞受賞、ベストSF2009第1位、第40回星雲賞日本長編部門受賞、フィリップ・K・ディック賞特別賞受賞という輝かしい賞歴とともに、作者を「ゼロ年代最高の作家」と評価せしめた作品。

21世紀後半、英語圏を中心にして発生した大暴動と、それに引き続いて起こった核テロによって、世界は完膚なきまでに破壊・汚染された地球が舞台。人類は、汚染が人体にもたらす影響を最小限に食い止めるとともに、ウィルスや細菌から徹底的に人体を防護するナノ医療システム"WatchMe"を中心に、大規模な福利厚生社会を作り上げていた。人体と精神に対する徹底的なケア・プログラムによって見せかけの優しさに包まれた世界に倦み疲れた2人の少女・トァンとキアンは、天才的な知能を誇る少女ミァハとともに不食や違法薬物による健康への反抗を試みていたーーー。テクノロジーによって生み出されたユートピアで苦闘する少女たちを描いたディストピアSF。

病床にあって、こと生命と健康に対する関心を高めていた著者が、現代の医療のはるか延長線上にある世界を幻視した作品、というのがまず本作の「最初の」立ち位置。もっとも本作では、究極的な医療の発展をかならずしも良しとはしていない。(自らを蝕む)病魔がいとも簡単に駆逐される(著者にとっての)理想社会を、自らの意思ですらも自らの命を絶つことができない、絶望社会と見なすことは、著者に「未来だったら自分はきっと助かる」という逃げ道を与えないのだ。一つの世界に同時存在する理想と絶望は、その世界が苦痛と諦念渦巻く現実と同質であることを著者にあらためて示すこととなる。多くの人が気にする「健康」に対する痛烈な皮肉、それも自らの命をも俎に乗せた、健康社会への強烈な一撃を与えた作品、というのが本作の「第二の」立ち位置といえそうだ。

健康なんてものは、病気との対比から初めて意識できる状態なのだ。病気のない世界で、だれが健康をありがたいと思えるだろうか?熱が下がって、咳が治まって、あるいは歩けるようになって初めて感じる「普通」であることへの喜びこそが健康の本質ーーーだとするならば、本作で描かれる未来社会をなんと形容すればよいのだろうか?

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